本年度の研究成果として、当初の予定通り、地方社会と職業安定所の関係を検討した。ただし、その対象については、新型コロナウイルス拡大の影響により、当初予定していた京都府、鳥取県から、近県の群馬県、東京都、千葉県に変更を行い、史料の所在を確認できた文書館の現地調査を実施した。 群馬県、千葉県の事例においては、敗戦後の県内各地の職業安定所の年報を確認することができたほか、県内の労働市場の動向を示す資料と突き合わせることで、高度経済成長期にかけての再興過程がかなりの部分で見えてきた。その結果、敗戦直後は各地の職業安定所の利用度がそれほど多数ではなかったという地域事情も見て取ることができた。 東京都の事例においては、前年度に研究報告を行った知識層失業対策事業の実態について、官公庁の年報や公文書史料を多数用いてその実態を解明した。その中で勤労署が当初失対事業の窓口となっていたこと、ただし対象者の住居と勤務先では遠距離になる矛盾が生じたこと、当該失対事業が職業安定所での就労を前提に計画されていき、事業期間終了後は職業安定所からの斡旋による簡易的な業務を紹介されていたことなどを明らかにした。この成果は活字化して公表することができた。 以上の検討により、地方社会と職業安定所の戦前との連続性に加え断絶性も見られること、その実態を検討する上では失業対策事業との関係を含めて包括的に検討する必要があることがわかった。なおこの他に、戦時~戦後の女性の労働動員政策を扱った研究書を書評する機会があり、戦後の職業安定所への連続性について批評した。 上記の研究成果をふまえて、研究期間全体を通じた成果を概括すると、戦時期からの職業紹介事業をめぐる制度改編について、従来の研究史を更新する史料を収集でき、占領下における各種失業者の実態についても従来の研究にない視点での研究成果をまとめることができたといえる。
|