研究課題/領域番号 |
20K00947
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研究機関 | 早稲田大学 |
研究代表者 |
鶴見 太郎 早稲田大学, 文学学術院, 教授 (80288696)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 柳田国男 / 民間伝承の会 / 民間伝承 / 橋浦泰雄 / 民俗 / 郷土 |
研究実績の概要 |
1950年代初期の柳田民俗学を軸に、郷土史家が組織化されていく様相を検証する作業を継続的に行っている。当該期はルース・ベネディクト『菊と刀』に代表されるように、欧米から捉えた日本人・日本論が大きな影響力を持ち始め、戦前・戦中と、それまで柳田国男及び柳田民俗学が蓄積してきた成果が外側から揺さぶられる状況が顕著となった時代でもある。加えて東京大学を中心にいくつかの教育機関に文化人類学の講座が設置され、系統的な研究基盤が整えられようとしていた。研究体制という面に限った場合、これは民俗学に先行するものでもあった。1954年10月に行われた日本民俗学会年会における報告「日本民俗学の将来」の中で石田英一郎は人類的視野で物事を捉える必要を説き、今後、日本民俗学が活性化する方途として、文化人類学の一分野となる道筋を掲げるが、柳田はこれに対して強い反発を示す。最終的にこの時の柳田の対応は翌年の民俗学研究所解散へと繋がっていくが、研究体制のみならず、より巨視的な展望から日本民俗学の方法、組織を展開し得なかったことが柳田にとって大きな悔恨となったことは確かである。 これらの諸点を念頭に置きながら、当該期における柳田の民俗学が組織的にどのような変容を遂げたのか、同時代における『民間伝承』を起点に、主要な地方における郷土研究会の雑誌を参照しながら、その動態について考察を行い、1935年の「民間伝承の会」設立時を指標にすると、当該期、各地において郷土史家の世代交代が一部みられたことを検証した。戦中において柳田民俗学の地方への浸透は見るべきものがあり、その背後に柳田の影響下にあった郷土史家が各地で安定した基盤を持っていたことが挙げられる。しかし、戦後数年を経て、その基盤とも言うべきものが次第に変容しつつあったのがこの時期であると推定される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
研究出張がコロナ禍によって、一部、限定的に行わざるを得ないことを除けば、概ね順調にすすんでいる。 ただし、地方の郷土研究会が発行している会報、雑誌類の閲覧が限られた状態となったこと、とりわけ、現地に調査旅行に赴くことが限られた結果、当該地における郷土研究会の会報・雑誌を所蔵している図書館、資料館の開館時期が限定されることが多くなっている点から、当初の計画を多少、変更せざるを得なくたった。 代替案として採用しているのは、雑誌類については1950年代前半を中心に、重要と思われる復刻版を対象に、当該期にとりわけ柳田民俗学の組織化がすすんだ地域(ないし団体名を変えるなど改編がすすんだ地域)を選び出して、優先順位を付け、最重要と判断される地域についてのみ、調査旅行を行い、それ以外のものについては都内の大学、公共機関で参照できるものを選んで閲覧複写を行っている。 当然、この作業だと閲覧資料がまだ不十分なことから、民俗学の組織化関する動態観察についての地域的な粗密が生まれることが想定されるため、その点については今後のコロナ禍の動向を見据えつつ、調査が実現可能な条件が整うことを待って、適宜補訂を行っていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
コロナ禍による調査旅行への影響が今年度も続くと想定されるため、対象となる地域の図書館・資料館の利用可能な時期・時間を考慮しながら、1950年代前半を射程に、柳田民俗学の組織化を見る上で重要な地域への実地調査を行う予定である。 その際、今後必要となる郷土研究会発行の雑誌、会報、その他の資料を基準に調査候補地の優先順位を決める。現時点では、1)比較的早い時期から柳田の民俗学が組織化されていた長野県、鳥取県、新潟県を最優先し、2)柳田の影響下にはありながら、その一方で出身地を異にする人士を抱え、民俗事象の集積地という点で東京とは別個にひとつの中心をなしていた地域として大阪府、兵庫県、京都府をそれに続くグループに想定している。そして可能であれば、3)戦後になってとりわけ柳田民俗学の組織化、ないし改編がすすんだ地域として岡山、群馬をこれに加えて検討したい。いずれも、去年度の積み残しが多少あるため、今後の調整が必要となる。 これと併行して、これまで集積してきた郷土史家・民俗学者の書簡の分析を適宜行いながら、上記の調査によって得られた資料と照合させ、当該期における柳田民俗学の組織的動態を検証する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍による調査旅行への支障から、当初予定していた実地調査を中止せざるを得ない状況に至ったことによる。今年度に繰り越すことで、当該の額を費消し、対応することとする。
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