研究課題/領域番号 |
20K00957
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
矢田 俊文 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (40200521)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 1856年安政台風 / 安政3年8月25日 / 潰家 / 多摩地域 / 被害報告書 / 家屋全壊率 / 江戸 / 巽風の記 |
研究実績の概要 |
2年度の主な成果は,以下の2点である。 1.日記によって安政3年(1856)8月25日の台風による江戸の被害を明らかにした。検討史料は『巽風の記』で、検討方法は史料に出てくる災害被害用語に注目して検討するというものである。災害の被害を明らかにするためには、一次史料である文書と日記の検討を行うことが重要である。村・町から組合村・代官等に提出される報告書を検討することが重要である。日記には災害の当事者の体験が記されている。災害の被害者でもあり、災害を目の当たりにした主人公の記録から被害の大きさを明らかにすることも重要である。 安政3年台風による江戸の被害を『巽風の記』によって明らかにした点は、次の2点である。a.検討の対象とした史料『巽風の記』について。『巽風の記』は、日本橋と一石橋の間に住む俳人、日一亭中川花海が台風翌日の安政3年8月26日から27日、9月1日、7日、8日の5回、江戸を歩いて見聞した被害状況を記した史料である。b.安政3年台風の江戸の被害について。「潰」用語に注目して検討すると、湯島台・柳原土手と本所・深川・築地の被害が大きかったことが明らかとなった。 2.多摩地域の組合村の被害報告書から安政3年台風被害を明らかにした。拝島組合村28か村(支配別)の被害報告書が残されている。拝島組合村の被害報告書のうち母屋の皆潰のみを取り出して表にして被害を検討した。皆潰家(母屋)がなかった村もあるが、27軒も皆潰になった村もあり、倒壊率12.9パーセントになった村もあることを明らかにした。 すでに布田組合44か村(東京都調布市・三鷹市・世田谷区ほか)について、安政3年台風の家屋全壊率は10.2パーセントであることを明らかにしている(矢田2018)。拝島組合村28か村(支配別)の被害を明確にしたことで、多摩地域の安政3年台風の被害の実態が明確になった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画どおり1714年(正徳4)正徳台風と1856年(安政3)安政台風を中心に前近代の台風の被害の研究を進めた。2年度は1856年(安政3)安政台風を中心に研究をすすめる計画であったので、安政3年台風の被害の解明をおこなった。江戸の被害については、『巽風之記』という史料が安政3年台風被害解明のための重要な史料であることを明確にし、その史料に記される「潰家」という被害用語に注目することによって、湯島台・柳原土手と本所・深川・築地の被害が大きかったことを明らかにした。 さらに、拝島組合村28か村(支配別,東京都立川市・武蔵村山市・東大和市・福生市・瑞穂町・昭島市・国分寺市・羽村市)の被害報告書のうち母屋の皆潰のみを取り出して検討し、皆潰家がなかった村もあるものの、27軒も皆潰になった村もあり、倒壊率12.9パーセントになった村もあることを明らかにした。安政3年台風の被害の広がりについては、被害報告書等の良質な史料を検討し、愛知県豊橋市、神奈川県横浜市、千葉県松戸市、埼玉県幸手市・久喜市、群馬県高崎市、茨城県藤代町、福島県相馬市等に台風被害が広がっていることを確認した。 ほかに、最終年度刊行予定の『正徳4年台風と安政3年台風を中心とした前近代台風被害基礎史料集』刊行に向けて、1699元禄12年、1742寛保2年、1786天明6年、1791寛政3年、1816文化13年、1828文政11年、1836天保7年、1859安政6年、1860万延元年の台風・暴雨雨飛被害の史料も収集するなど、当初の計画どおり研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、1714年(正徳4)正徳台風と1856年(安政3)安政台風の被害数と被害範囲を明確にする。研究方法は家屋倒潰率・一軒当り死亡者を明らかにすることによって地域の被害程度を明らかにするという方法で行う。村単位で災害の大きさを明らかにする。ただ村単位では把握する範囲が狭小すぎて災害の規模がわかりづらい。大庄屋・組合村が藩・代官等に提出する被害報告書は10か村から40か村程度の範囲の被害の状況がわかるので、大庄屋・組合村が藩・代官等に提出する被害報告書を探し出して検討を行う。 台風被害の大きさ、地域の被害の特性を知るには、被害数だけではなく、一軒当り死亡者数や家屋倒壊率を導きだすことが重要である。地震研究では、矢田俊文『近世の巨大地震』(2018)は活断層近くの集落の一軒当りの最大死亡者数を0.27人、土砂崩れによる被害の場合は一軒当り死亡者数1人を越えることを明らかにしている。この方法を台風被害の研究に使用する。 3年度は、1714年正徳台風の研究を中心に行う。正徳4年の災害が台風であることを指摘したのは藤本清二郎2016(『紀州藩主 徳川吉宗 明君伝説・宝永地震・隠密御用』)であるが、藤本2016は、和歌山県の被害史料しか検討していない。本研究では、調査対象地を広げ、近畿・東海地域の史料調査・分析をおこなう。 2年度に行った1856年安政台風についても補充調査を行う。同時に2年度に収集した元禄12年、寛保2年、17天明6年、寛政3年、文化13年、文政11年、天保7年、安政6年、万延元年の台風・暴雨雨飛被害の史料の検討を行い、さらに収集を進める。また、観測装置が不十分な時期である明治期の台風の被害報告書を収集し史料の検討も行う。 さらに最終年度に刊行予定の『正徳4年台風と安政3年台風を中心とした前近代台風被害基礎史料集』のための準備も平行して進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)調査予定地と研究対象史料を検討するなかで、2年度に本格的な調査をするよりは、3年度に本格的な調査をする方が研究遂行上効果的と判断したため当該研究費が生じた。 (使用計画)未使用額と3年度の研究費をあわせて、本年度の調査によって見出した埼玉県久喜市の台風史料の調査地点等の現地調査のための旅費、史料購入費として使用する。
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