研究課題/領域番号 |
20K00957
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
矢田 俊文 新潟大学, 人文社会科学系, フェロー (40200521)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 1699年元禄台風 / 元禄12年8月15日 / 年代記 / 谷合氏見聞録 / 被害報告書 / 家屋全壊率 |
研究実績の概要 |
3年度の主な成果は,次のとおりである。 台風被害の実態を明らかにするため史料としての年代記研究を行った。年代記とは歴史上の事件を年代順に記録したものであるが、過去の書物や記述を写しとった部分や同時代の記述ではない部分は確実な事実を記述しているのか不確かなところが多いため、その点を十分に検討することなしに史料として用いることは危険である。年代記は書かれている事柄が記主の実体験なのか、伝聞によるものかの区別が重要である。とくに近世の年代記にあっては記主が手に入れた別の年代記を書き写している場合もあり、十分に吟味する必要がある。片桐2020は寺院の年代記について、特定の年代の記事がどの時期に記されたものかどうかを検討した上で、その年代記の記事が同時代に書かれたものであることを明確にして使用している。本研究では元禄12年(1699)8月15日の台風を対象にして年代記の史料研究を行った。対象とする年代記は正徳4年台風の記事も記載されている『谷合氏見聞録』である。『谷合氏見聞録』は、いままで災害が記された史料として注目されているが、史料そのものの検討はなされていない。 明らかにした点は次の2点である。a.1699年元禄台風の被害は文書・日記によって被害の大きさをあらかにすることが重要であるが、文書・日記がその地域にない場合であっても、年代記から被害の実態をあきらかにできることを明確にした。年代記はそれがどのように書かれた年代記なのかを明確に出来れば、災害の史料として有効である。b.年代記のひとつである『谷合氏見聞録』は「・・・の由」「と風聞」「後に聞く」という用語を使用して、記主本人が得た情報と伝聞情報や後日に得た情報を区別して書いている。この情報の区別にしたがって『谷合氏見聞録』を読み込めば自らが体験した事実と後日知り得た事実を知ることができる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画どおり1714年(正徳4)正徳台風と1856年(安政3)安政台風を中心に前近代の台風の被害の研究を進めた。3年度は正徳4年8月8日の台風を中心に研究をすすめる計画であったので、正徳4台風について、広島県、島根県、鳥取県、兵庫県、大阪府、奈良県、和歌山県、三重県、愛知県、静岡県、千葉県,群馬県,茨城県,福島県の史料を収集・整理した。 さらに、元禄12年(1699)8月15日の台風について、京都府、愛知県、静岡県、東京都、群馬県の史料によって被害の整理をした。そのなかで、検討した史料によって、三重県・神奈川県・千葉県もこの台風が襲ったことを明確にした。また、原町(静岡県三島市)の家屋全壊率は 24.4%、小川新田村(東京都小平市)の全壊率は45.0%であることを明らかにした。元禄15年(1702)8月29日の台風について、藩史料中心であるが、福岡県、高知県、愛媛県、香川県、岡山県,鳥取県の被害情報を整理した。享保6年閏7月15日(1721)の台風について、藩史料中心に、高知県、愛媛県、香川県,岡山県、島根県、鳥取県の被害情報の整理をおこなった。鳥取県については、因府年表に米子と倉吉を中心に被害の状況が記され、享保六丑歳閏七月十五日洪水ニ損亡其外品々相改覚控帳(鳥取藩史 事変志 三)には因幡国については被害の記載がなく、伯耆国の被害しか記されていないので、この時の鳥取県の被害は鳥取県西部地域(伯耆国)に限定されることを明確にした。 ほかに、最終年度刊行予定の『正徳4年台風と安政3年台風を中心とした前近代台風被害基礎史料集』刊行に向けて、1742寛保2年、1786天明6年、1791寛政3年、1816文化13年、1828文政11年、1836天保7年、1859安政6年、1860万延元年の台風・暴雨雨飛被害の史料も収集するなど、当初の計画どおり研究が進んでいる。
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今後の研究の推進方策 |
本研究では、1714年(正徳4)正徳台風と1856年(安政3)安政台風の被害数と被害範囲を明確にする。研究方法は家屋倒壊率・一軒当り死亡者を明らかにすることによって地域の被害程度を明らかにするという方法で行う。 台風被害の大きさ、地域の被害の特性を知るには、被害数だけではなく、一軒当り死亡者数や家屋倒壊率を導きだすことが重要である。地震研究では、矢田俊文『近世の巨大地震』(2018)は活断層近くの集落の一軒当りの最大死亡者数を0.27人、土砂崩れによる被害の場合は一軒当り死亡者数1人を越えることを明らかにしている。この方法を台風被害の研究に使用する。 本年は最終年度なので、『正徳4年台風と安政3年台風を中心とした前近代台風被害基礎史料集』(以下『前近代台風被害基礎史料集』と記す)の刊行とそのための調査と史料分析を行う。『前近代台風被害基礎史料集』に掲載する重要な史料については、歴史学研究者だけでなく理系研究者・防災担当者にも理解できるように、丁寧な注・解説を付ける。関東地域では、安政3年8月25日の台風の被害報告の文書を安政2年10月2日の被害報告の文書と間違って理解して公表している自治体史等がある。地震被害と台風被害の違いの大きな点は、風による木折の被害報告があるかどうかである。地震と台風の被害報告書の違いをわかりやすく説明する。 『前近代台風被害基礎史料集』を充実させるため、1714年正徳台風・1856年安政台風についても補充調査を行う。元禄12年、元禄15年、享保15年、寛保2年、天明6年、寛政3年、文化13年、文政11年、天保7年、安政6年、万延元年等の台風・暴風雨被害の史料の検討を行い、重要な史料は『前近代台風被害基礎史料集』に掲載する。また、観測装置が不十分な時期である明治期の台風被害史料についても検討を行い、重要な史料は『前近代台風被害基礎史料集』に掲載する。
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次年度使用額が生じた理由 |
(理由)調査予定地と研究対象史料を検討するなかで、3年度に本格的な調査をするよりは、4年度に本格的な調査をする方が研究遂行上効果的と判断したため当該研究費が生じた。 (使用計画)未使用額と4年度の研究費をあわせて、本年度の調査によって見出した茨城県土浦市の台風史料の調査地点等の現地調査のための旅費、史料購入費として使用する。
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