研究計画通り最終年度に台風被害史料集として『歴史学による近世・近代台風・暴風雨史料集―被害数と被害率―』を作製した。本史料集は歴史研究者にとって台風・暴風雨研究に役立ち、さらに防災・減災に役立てるための史料集をめざしたもので、近世・近代の台風・暴風雨の史料を選び出し、その被害についての注釈と解説、さらに必要に応じて現代語訳もつけ紹介している。本史料集では元禄12年・正徳4年・安政3年・明治25年・明治26年の5つの台風・暴風雨を対象として取り上げ78点の史料を取り上げ検討している。以下史料集に収載した台風のうち正徳4年・安政3年の台風被害の成果について説明する。 1714年正徳台風については、従来、歴史学では紀伊の被害の研究しかなかったが、出雲地域(島根県)から会津地域(福島県)まで広範囲に被害を与えていたことを確認した。1714年正徳台風は、史料によって7月8日とのみ記されるものや8月8日とのみ記される場合があるが、正徳4年は7月8日と8月8日の2度あったことを複数の史料から確認できた。 1856年安政台風は三河国厚美郡地域(愛知県豊橋市)から陸奥国相馬地域(福島県相馬市)までを史料で確認できた。このうち被害は神奈川宿(神奈川県横浜市)から相馬地域まであったこと、従来の研究には検討した史料がすくなく安政江戸台風という題名を付けるなどして江戸だけが被害を受けたかのような誤解をあたえるようなものもあったが、江戸だけではなく東海地域から東北地域の広範囲で大風と被害があった台風であることを明確にした。関東地域では安政3年8月25日台風の被害報告文書を安政2年10月2日の被害報告文書と間違って理解して公表している自治体史等があるが、地震被害と台風被害の違いの大きな点は風による木折の被害報告があるかどうかであることを明確にし、地震被害報告書と台風被害報告書を見分ける方法を確立した。
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