研究課題/領域番号 |
20K00965
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研究機関 | 法政大学 |
研究代表者 |
矢野 美沙子 法政大学, 沖縄文化研究所, 兼任所員 (40706636)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 琉球史 / 古琉球 / 近世琉球 / 辞令書 |
研究実績の概要 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響のため、史料調査のための出張が実施できなかった。そのため、研究計画を一部改め、辞令書と深い関わりを有する周辺史料の分析を優先的に行うこととした。 中世東アジアにおける公用語は漢文であり、琉球王国も外交文書では漢文を使用してきた。その一方で、石碑や、琉球国王から発給される「辞令書」など、琉球国内で完結する文書については、仮名文字が用いられることが多かった。そうした傾向は十六世紀頃に顕著であり、仮名書きの辞令書や『おもろさうし』が作成された時代的背景と一致する。本年度は、仮名書きの辞令書と通底する特徴を持つ仮名碑文について、主として検討を行った。 その結果、古琉球期、仮名文字は王権と深い関わりを持っていたことが確認された。漢碑文に比して仮名碑文を重視していたことに、古琉球の社会的特質があらわれている。しかし、近世琉球期に入ると仮名碑文の作成は途絶え、漢碑文が主流となる。これは、漢字仮名交じりで記されていた古琉球辞令書が、漢文表記の近世琉球期辞令書へシフトしてゆくこと と軌を一にしている。近世化の過程で、「古琉球」的な文化のあり方は漢文表記を重視する日本的なシステムの中に組み込まれていったことが明らかとなった。研究成果については、論文にまとめて『沖縄文化研究』48号に発表した。 また、琉球王国における公的文書の発行主体である評定所に関する分析にも着手した。初期薩摩藩の行政機構と琉球評定所機構の構成の相似については、先行研究でも指摘されている。近世琉球における国内行政機構の整備は、薩摩の「近世化」そのものと密接に関わり、強い影響を受けていたと言える。そうしたパワーバランスが、琉球王国における文書行政にどのような影響を与えたのか検討することは、次年度の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、初年度に実施を予定していた沖縄に出張しての史料調査・収集が実施できなかった。 そのため、2020年度はすでに収集しているデータの分析および先行研究整理を重点的に行うこととなった。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、2020年度に実施できなかった沖縄への研究出張については、今後の社会状況の推移を見ながら、日程を計画する。また、昨年度に引き続き、すでに収集しているデータの分析を優先して行い、可能な部分からデータベースの構築に着手してゆきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響のため、初年度に予定していた史料調査のための沖縄への研究出張が実施できなかった。そのため、予定していた旅費の支出と史料調査に関連する備品の購入を行わなかったため、次年度への繰り越しが発生した。 現地での史料調査は、本研究計画に不可欠であるため、社会状況を勘案しつつ、今後の出張計画を策定し、実施したい。
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