研究課題/領域番号 |
20K00970
|
研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
人見 佐知子 近畿大学, 文芸学部, 准教授 (00457029)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | 娼妓 / 公娼制度 / 遊廓 / 性買売 / 性売買 / 貸座敷 |
研究実績の概要 |
2021年度は、前年度までに収集した史料にもとづいて以下の点を解明し、成果の一部を公開することができた。 (1)近年の近代公娼制度研究は、娼妓の意思や主体性が注目される一方で、周旋業者・貸座敷業者・買春男性といった娼妓たちを搾取する主体との関係や、背景にある「家」制度的道徳や前借金の慣行などの搾取の仕組みや社会構造についての分析を欠く傾向があり、娼妓たちの主体性の意味を十分に分析出来ていないという問題を抱えていた。そこで本研究では、娼妓の意思(主体性)と近代公娼制度下の搾取構造の相互的関係を明らかにするために、娼妓が住み替えを依頼するために芸娼妓紹介人(周旋業者)に宛てて書かれた手紙を分析し、貸座敷業者、周旋業者、「家」や買春客との非対称な諸権力関係のなかで搾取が隠蔽され、娼妓の意思や主体性が公娼制度の維持のために巧みに利用されていたことを明らかにした。また、娼妓自身が搾取の実態を認識することはきわめて困難で、むしろ、周旋業者や貸座敷業者、親きょうだいに過剰に同調し、依存を深めていくことがうかがえた。 (2)(1)の分析をさらに深めるために、周旋業者や貸座敷業者が作成した史料を用いて、住み替えにおける周旋業者の役割や、前借金の精算方法を具体的に解明し、近代公娼制度下の搾取の仕組みや人身拘束の実態を明らかにしたうえで、それらが娼妓にとってどのような意味をもっていたのかを考察した。その結果、廃娼運動などの影響であからさまな人身拘束や搾取がしだいに困難になるなかで、待遇改善といった名目で搾取が洗練されていくようすがうかがえた。 (3)一次史料にもとづく近年の研究状況を整理し、一次史料による性買売研究の意義と課題を明らかにすることで、今後研究を進めていくための視角と方法をブラッシュアップすることにつとめた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度は、前年度から分析をすすめていた奈良県大和郡山市洞泉寺遊廓旧川本楼関係史料、近畿大学中央図書館所蔵「金沢遊郭芸娼妓関係文書」、東北大学歴史博物館所蔵阿部家文書を用いて、とくに娼妓の住み替えと前借金の精算方法に注目し、近代公娼制度下の人身売買の実態について、周旋業者・貸座敷業者・「家」による搾取の構造と娼妓の意思(主体性)との相互関係を明らかにすることをめざした。学会報告をおこない(活字化は来年度になるが)、成果と課題が明らかとなったことで、今後の研究の見通しを得ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
次年度は、前年度に引き続き、「金沢遊郭芸娼妓関係文書」(近畿大学中央図書館)、阿部家文書(東北歴史博物館所蔵)を中心に分析をすすめ、とくに本研究課題のタイトルにもあげている芸娼妓紹介業の実態解明に取り組む。 史料の翻刻(データ化)については、引き続き古文書読解能力をもつ協力者の支援を得ておこなう予定である。研究成果は、適宜学会・研究会等で報告するとともに論文化をすすめる。また、学会や研究会に積極的に参加し、視点や方法の修正をおこないつつ、研究内容の精緻化をめざしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナの感染拡大のため、すべての学会報告・口頭発表がzoomでの開催となり旅費の支出がなかったこと、予定していた現地調査が実施できなかったことによる。
|