研究課題/領域番号 |
20K00971
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研究機関 | 神戸女子大学 |
研究代表者 |
松下 孝昭 神戸女子大学, 文学部, 教授 (10278806)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 警察予備隊 / 演習地 / 松本市 |
研究実績の概要 |
研究期間2年目にあたる当該年度においては、引き続き資料の所在確認と閲覧・収集につとめた。具体的には、長野県立歴史館において県議会関係の陳情書綴や県評センター関係の資料を閲覧し、必要箇所を撮影した。松本市文書館では旧今井村役場文書など合併町村の公文書を中心に調査した。松本市議会の会議録については、同市のホームページにおいて当該期のものもすべて公開されていることを知り、必要箇所を閲覧のうえ収集するにあたっては多大の便宜が得られた。当時の地元新聞については、前年度に続いて県立長野図書館において『信濃毎日新聞』のデータベースを活用し、必要記事の収集に努めた。このデータベースは県内の地方版ももれなく採録しており、とりわけ「中信版」には本研究課題に有意義な記事を多数見出すことができた。 長野県での調査と並行して、東京での資料収集にも努めた。まず、国立国会図書館では、憲政資料室が所蔵する「只松祐治関係文書」「日本社会党国民運動局旧蔵資料」に基地闘争関係の文書が多数所蔵されていることを知り、閲覧のうえ必要箇所を複写申請した。同館の新聞資料室では、松本市で刊行されていた『信陽新聞』のマイクロフィルムを利用した。松本市立図書館でも見ることができるが、コロナ禍で時間制限等の制約を受けるだけに、国立国会図書館で同じものが利用できるのはありがたかった。また、法政大学大原社会問題研究所でも基地闘争関係の文書を閲覧した。さらには、国立公文書館においては、戦後の公文書の公開も進み始めており、防衛省から移管された部隊史の類を公開請求した。 総じてコロナ禍による制約が大きくて資料収集には辛苦したが、公文書・図書・新聞記事のそれぞれにおいて、ほぼ予定していた資料の収集は終えた。これらを分析して、研究課題である警察予備隊の立地がもたらす地域社会への波紋についての研究を深めていくことが次の課題となる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を開始するにあたり、4年間の研究期間のうち最初の2年間は、もっぱら資料収集に充てる予定を立てていた。収集する資料は大きく分けて、①公文書、②新聞記事、③団体関係文書、④図書の4つに区分できる。 このうち公文書については、長野県立歴史館、松本市文書館、安曇野市文書館等において当該期の県議会、市町村議会の会議録を中心に、ほぼ必要箇所の閲覧と収集は終えている。とりわけ松本市議会の会議録は、すべて同市ホームページ上に公開されているのはありがたかった。 新聞記事の検索と収集については時間がかかるだけに、初年度から本年度にかけて鋭意閲覧を進め、松本市の地元紙『信陽新聞』については、研究対象期間である1950年から1954年の分の収集は終えた。『信濃毎日新聞』については県立長野図書館のデータベースを利用して、「中信版」のような県内地方版まで含めて閲覧を進め、これもほぼ研究対象期間の記事の収集は終えることができた。 団体関係文書としては、長野県立歴史館が所蔵する「県評センター史料」の存在が大きい。先行研究でも既に利用されているものではあるが、これによって演習地化反対闘争の動向が詳しくわかり、必要と思われる簿冊の閲覧・収集を終えた。国立国会図書館憲政資料室の「只松祐治関係文書」「日本社会党国民運動局旧蔵資料」には、全国的な闘争の記録が含まれており、研究の視野を広げることができた。 図書については、『松本市史』『長野県政史』等の地元自治体史を古書店で購入することを進めており、研究室に配架している。 コロナ禍による図書館・資料館の時間制限や予約制などの制約を受けながらも、研究開始当初に予定していた2年目の資料収集目標は、おおむね達成されたと考える。これらの資料を分析して論文にまとめていく作業が次年度の課題となる。
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今後の研究の推進方策 |
4年間の研究期間のうち、資料収集に費やす前半の2年間は、おおむね順調に進捗した。ここで収集した資料を分析して論文を作成し、学術雑誌に掲載することが残る2年間の課題となる。具体的には、松本市が警察予備隊の誘致に成功したものの、必要とされる演習場の適地が得られず、県内の他の市町村と軋轢を重ねる過程を描き出す。このことを通して、朝鮮戦争の勃発による日本再軍備が地域社会の内奥においてどのような波紋と葛藤をもたらしたのかという研究課題に迫る事例としたい。 結局のところ松本部隊は県内には演習地を確保できず、新潟県の高田部隊に属する関山演習場を利用することとなる。そこから派生する新たな研究課題として、高田との比較という視座が生じてきた。松本市と同じく新潟県高田市(現上越市)も警察予備隊の誘致に成功した。両市とも旧陸軍所在地であったという共通項を有するのみならず、演習場の確保に際して旧陸軍演習場に狙いをつけた点でも共通する。高田の場合は関山演習場の確保に成功した一方、松本部隊は旧陸軍の有明演習場を買収しようとしたところ、激しい反対運動を惹起し、失敗に終わっている。この差異はいかなる要因に由来するのであるかという新たな課題意識が芽生えてきたのである。 戦前期における高田市の師団立地については、既に調査をおこない、論文「日露戦後期における師団の立地と市街地改造」(『史学雑誌』130編3号、2021年)として発表した。そこで、その論文の延長上に高田市の戦後史についてもトレースし、松本部隊の場合との比較検討にも視野を広げていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍によって資料調査のための出張計画が予定よりも少なくなり、その分だけ次年度への繰り越しが生じてしまった。次年度には論文作成過程で補充調査のための資料調査が必要となると思われるので、東京あるいは長野に出向く機会を当初の予定よりも増やす計画である。また、研究を進める過程で、当初の対象地域の松本市以外にも、新潟県高田市(現上越市)との比較検討という課題が浮上してきており、上越市方面への資料調査の機会を増やすことによって繰り越し分を使い切りたい。ただし、これらの出張予定はコロナ禍の状況に左右されるという側面は今なお続いている。 このほか、戦後防衛問題・基地問題に関する専門書が次々と刊行されており、これらの購入も積極的に進め、研究整理のための資料に充てる予定である。
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