研究課題/領域番号 |
20K00972
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研究機関 | 就実大学 |
研究代表者 |
苅米 一志 就実大学, 人文科学部, 教授 (60334017)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 吉備地方 / 寺院古文書 / 中世荘園 |
研究実績の概要 |
(1)ここまで収集・整理してきた岡山県内の寺社古文書のうち、特に牛窓本蓮寺文書について考察を深めた。同寺の所在する牛窓保(石清水八幡宮領)および鹿忍荘(石清水善法寺領)の錯綜関係、荘園内部における寺社の存在形態、主要な在地領主、領主層における土地の売買・寄進の関係などについて検討した。特に、実際は土地の寄進ではあるものの、徳政(土地の無償返却)を避ける目的で、売買の形により土地を譲渡する「売寄進」、善意の第三者が土地を買い付け、即時にそれを寺院へ無償で寄進する「買得即時型寄進」の様相を観察し、そうした第三者が本蓮寺にとって重要な檀越層でもあることを結論づけた。また、そうした檀越層の中でも最有力者である石原氏が瀬戸内海における海運と金融に携わり、莫大な財力を有していたこと、従来は不明であった彼らの出身地が京都近郊であるらしいこと、すでに京都において日蓮宗本山寺院に接触していた彼らが、京都から僧侶を招請するかたちで本蓮寺の基盤を形成したことなどを指摘した。以上は、就実大学吉備地方文化研究所編『吉備地方中世古文書集成(三)』(2021年)として結実している。 (2)近世の古文書集である『黄薇古簡集』のうち吉井村吉祥寺文書を考察し、吉祥寺の基盤を形成したのが頓宮氏であること、同寺が禅宗寺院であり、京都文化の影響を強く受けていること、備前国利生塔もまた吉祥寺の境内にあったこと、南北朝期に頓宮氏が没落し、代わりに赤松氏が同地(福岡荘吉井村)に入り、周辺の市場など商業地域を把握したことなどを結論づけた。以上は苅米「備前頓宮氏についての基礎的考察」(『吉備地方文化研究』31号、2021年)として結実している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現地調査のための旅行は実施できなかったが、蓄積された史料と諸データが存在しており、それらの整理を進めることで、備前国牛窓荘・鹿忍荘、同国福岡荘吉井村などについて考察を深めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
従来、研究を進めてきた備前国金岡東荘(岡山市東区)、同国新田荘(和気町)、同国牛窓荘(瀬戸内市)、同国福岡荘(岡山市東区・瀬戸内市)などの考察から、武士団・在地領主の存在が重要であることが推測できた。備前国内では松田氏・赤松氏の存在が重要であるが、より考察の幅を広げ、美作国における荘園と在地領主について考察を深めたい。具体的には、同国稲岡荘における誕生寺、弓削荘における志呂神社・豊楽寺の古文書を対象としてそうした問題の調査を進めることとする。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナの感染対策のため、調査旅行を実施することが困難であったため、主として旅費が残ることとなった。
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