最終年度には、「日本占領期ビルマの綿事業と住民」を発表すると共に、アウンサン将軍の虚像と実像に迫ろうとする次期の研究に向けて、アウンサンに関わる日本占領期と独立交渉期の資料の収集・読解に力を入れた。同時に、アウンサンの靖国思想の継承の問題について、検討を進めた。本研究はバモオを中心としたものだが、バモオ政府の位置づけは、アウンサンやその政治グループと比較することでより鮮明になるはずである。このようにアウンサンへの着目は、研究の広がりを導くものとして重要な意味・意義を持つ。 研究期間全体では、(1)バモオ政権論として、「日本占領期ビルマにおけるタキン・トゥンオウッ、タキン・バセインの闘争」、「バモオ政府(ビルマ)の仏舎利寄遷(1944年)」、「バモオ小伝」、(2)住民の戦争被害に関わる問題として、「日本占領期下ビルマの米穀問題」、「日本占領期ビルマの塩不足」、「泰緬鉄道へのビルマ人建設奉仕隊(レッヨン・タッ)の動員」、「日本占領期ビルマの綿事業と住民」、を発表した。(2)では、ビルマ側の負担を緩和させようとするバモオ政府の努力にも言及し、同政府の自立性を強調する(1)の趣旨と接続させることもできた。この他、(3)「シャン、カレンニーの帰属問題(1942~1943)」で、日本の政策の重層性について理解を深めた。さらに、(4)「研究展望 太平洋戦争と東南アジア占領」で、現地語史料を使うことで「大東亜共栄圏」のイメージが大きく変わり得ることを指摘し、研究方法の見直しを提唱した。一連の研究は、太平洋戦争・日本近代史研究への批判・提案として重要な意義を持つ。
|