研究課題/領域番号 |
20K00984
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研究機関 | 中央大学 |
研究代表者 |
山崎 圭 中央大学, 文学部, 教授 (60311164)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 村落 / 地主・豪農 / 地域社会 / 幕府領支配 / 千曲川 / 水害 / 治水 |
研究実績の概要 |
本研究では、(1)洪水と向き合う地域社会の研究、(2)飢饉・凶作と向き合う地域社会の研究、(3)幕末維新期まで見通した幕府領支配の研究、の3つの柱を立てて史料調査を実施し、分析を進めている。 今年度の史料調査は、(1)と(3)を中心に進め、中野市立博物館(長野県)、長野市立博物館、長野県立歴史館で実施した。中野市立博物館では、大学院生とともに旧柳沢村の畔上家文書の整理・調査を実施した(未完)。これは同村の名主家文書だが、同村が千曲川沿いに位置する幕府領(中野代官支配)であったことから、千曲川水害関係や幕府領支配関係の史料が多く含まれていることが確認できた。長野市立博物館では、昨年度から継続中の赤沼河原新田文書についての史料調査・撮影を実施し、その成果をもとに、同館で2022年1~3月に開催された企画展「地域の宝を救え!今も続くレスキュー活動~陸前高田、そして長野へ」の近世千曲川水害関係のコーナーについて、展示史料選択やキャプション執筆等の協力を行った(同展示を解説するインタビュー記事が2022年3月10日付信濃毎日新聞朝刊に掲載された)。また、長野県立歴史館では、かつて長野県史編纂のために撮影された史料写真の中から千曲川水害関係の史料を収集した。 研究発表としては、これまでの史料調査の成果をもとに拙稿「近世の千曲川水害と地域社会・江戸幕府」(『西洋史研究』50号、2021年12月)を発表し、当該地域では治水をめぐる村落間の利害対立が激しく、幕末段階の幕府はそれを調整して治水プランを示すことができなかったため、地主が小作人と村に突き上げられる形でその調整と治水に奔走した様子を具体的に明らかにした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究の進捗状況は前年度より改善しているものの、やや遅れていると言わざるを得ない。コロナ渦の影響で調査先の許可を得るのが難しかったためである。 具体的には、(1)中野市域で予定していた水害関係の史料調査(毎年2回ずつ5人で3日間)については当初2回予定していた(前年度の繰り越し分を入れれば3回は実施したかった)が、1回実施するのが精一杯だった。しかし、「研究実績の概要」にも記した通り畔上家文書は今回の研究を進める上で重要な史料であることがわかったので、今後も継続して調査していく。(2)長野市立博物館で保管されている赤沼河原新田文書は、2019年の台風19号による洪水の被害を受けた史料で、ボランティアの方々がその保全処置を進めている。こちらについても昨年度から調査・撮影を進めているが、処置が済んだ範囲のものを取り扱っているので、全体を把握するにはもう少し時間がかかる。また、赤沼河原新田を含む長沼地区については洪水被害に遭った史料と同時に、被害を免れた史料も複数存在する。それらの史料について、前述の新聞記事の関係で地元の方とつながりができ、被害に遭わなかった文書の所在について知ることができた。(3)また、長野県立歴史館で長野県史刊行会がかつて収集した史料の写真を閲覧することで、長沼地区の史料の所在状況についても確認した。同館は閲覧室の閉鎖期間が長く、調査ができたのは1度だけである。こちらも今後作業を進めることにしたい。 研究の基礎となる史料調査については以上の状況だが、成果発表については、専門論文1編を発表した他、博物館の展示協力や新聞のインタビューにこたえるなど、社会に研究成果を還元することもできた。
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今後の研究の推進方策 |
大学院生の協力を得て行う中野市立博物館での史料調査はこの研究にとっては要の調査であるので、受け入れ側の許可を得てタイミングを逃さずに実施したい。昨年度見送った分の予算を繰り越しているので、その分の回数を増やして史料調査を行いたいと考えている。畔上家文書についてはあと2回程度で調査が終了すると思われるので、学芸員の方と相談しながら中野市域の次の調査先を見付けていく(候補となる史料は多数ある)。長野市立博物館の赤沼河原新田村文書については、未調査分が残っているので継続して調査し、論文執筆に向けて準備する。さらに同村周辺の村々についても関係する史料の所在がわかってきているので、これらについても調査する。長野県立歴史館については、蔓延防止期間が解除された後でも閲覧室の閉鎖が続いており不安な面もあるが、他の調査を先に進めておき、閲覧室の再開次第調査できるように準備をしておきたい。 以上の史料調査を前提にしながら、赤沼河原新田を中心とする長沼地区の水害対応に関する論文をまとめる。また、これまで収集してきた水害関係史料を翻刻・整理して史料集を作る作業も進めていく。 なお、当初の計画では、長野県信濃町の一茶記念館で史料調査・収集を予定していたが、コロナ渦の影響により実施できていない。これについては、調査の可能性を探ってみるが、一方で長野市立博物館等で千曲川水害関係の新たな史料をいくつも見出すことができているので、こちらにシフトしていくことも考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ渦の影響で予定通りに史料調査が実施できず、旅費が未使用になった。特に研究費の執行上大きかったのが、中野市立博物館で予定していた自然災害関係の史料調査(毎年2回ずつ5人で3日間)が1回しかできなかったことである。今年度は規制が解除されており、おそらく実施が可能だと思われる。早めに史料調査を計画し、今年度2回の調査に加えて、これまでできなかった分も2回程度実施したいと考えている。
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