研究課題/領域番号 |
20K00991
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研究機関 | 近畿大学 |
研究代表者 |
位田 絵美 近畿大学, 産業理工学部, 准教授 (30353345)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 「長崎旧記類」 / 異文化認識 / 異文化交流 / 『長崎始原』 / 『増補華夷通商考』 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、江戸時代の長崎民衆が、子孫のために選び、編纂した未刊の写本群「長崎旧記類」の実態を解明することである。それは、当時、日本のどの土地よりも直接的に異文化交流を行っていた長崎の民衆から見た異文化交流史を明らかにし、その事実がどのように物語化していったのかを解明することでもある。「長崎旧記類」は、『崎陽群談』や『長崎実録大成』のような長崎奉行が関わった官撰書ではない。民撰書としての貴重な記録を有するにもかかわらず、成立背景が不明で、内容も複雑多岐なため、従来は研究対象外とされてきた。本研究ではこのような「長崎旧記類」を丹念に分析し、長崎民衆の異文化交流史に新規性の高い知見を提供する。 令和4年度の研究成果は、国際シンポジウム「日本と東アジアの〈異文化交流文学史〉」(2022年11月5・6日 於立教大学太刀川記念館)での報告・討論や、『解釈』第68巻9・10号、『近世初期文芸』第39号の拙稿で公表している。以下、1~4に今年度の研究内容とその成果を示す。 1、「長崎旧記類」の収集、翻刻・整理を引き続き行い、系統分類を行った。同時に成立年等の確定した史料を精読した。 2、これまでに調査した「長崎旧記類」を4種に分類し、その特性を考察した。 3、『長崎始原』は、2.の分類で第3種に分類され、筆録者の解釈・脚色を含む話を収録し、一定の意図を以て編纂していることが明らかになった。 4、写本群「長崎旧記類」で集積された情報が、『華夷通商考』『増補華夷通商』などに収録、刊行されることで、情報が流布したと考えられる。とくに『増補華夷通商』で改訂された内容には、直接異文化交流を行わなければ分からない情報が多く含まれ、それらを丁寧に分析することで、物品を通じての異文化交流の解明が可能であることが判明した。今後は、記事をより詳細に分析し、研究を深化させたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
コロナ禍で、図書館や資料館に直接出向き、史料を調査・収集する作業に遅れを生じている。WEB上から入手できる史料の翻刻・整理・分析を実施しているが、原典を手に取っての情報には及ばない。ただし、コロナ禍が収まり始めた令和5年3月以降、これまでの分を挽回するように、精力的に史料調査に出かけており、今後もこの調子で調査を行えば、十分に遅れを挽回できると考える。 万一、今後もコロナの再流行等で、直接、史料を調査・収集・分析する作業が十分に行えない場合は、これまでに入手している史料を中心に分析を推進し、WEB上から入手できる史料を再活用し、考察の深化に努めたい。
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今後の研究の推進方策 |
今後も継続して、すでに入手済みの史料の翻刻・整理・分析を精力的に行い、同時にコロナ禍の影響が少ない地方(長崎・山口等)から、現地調査を精力的に実施する。 「長崎旧記類」収録の記事から、その特徴の分類を行い、それぞれの筆録者の編纂意図を明らかにする。また収録された情報が、いかにして物語化していくのかの過程を分析する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和4年度もコロナ禍のため、現調査をして史料を手に取って分析できた事例がわずかしかない。そのため、旅費等の使用の大半を、令和5年度に持ち越した。すでに令和5年3月以降、これまで行けなかった図書館等での史料調査・収集作業を精力的に実施しており、研究の遅れを取り戻すべく、分析に邁進したい。
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