本課題は、古代荘園と在地社会の実態的分析から「日本型律令制」の理念と実態を新たな分析手法により明らかにすることを目的とした。 最終年度の成果としては、額田寺伽藍並条里図の裏打ち紙に付着した糸片を採取し、炭素14年代分析法により、8世紀第三四半世紀までに採取されたものであることを確定させた。従来、成立年代については四字年号の時期か、宝亀年間かという議論があったが、前者の可能性が高いことが確認できた。また、高精細の顕微鏡による表面観察を行い、糸の切断状況や大和国印の押印の状況から、本来は左右に展開するものであった可能性が高まった。 また、栄山寺文書については、地理情報ソフトを使用して、条里坪付け情報を入力し、地図上に表示作業をおこなった。印影調査を含む作業により、寺領の変遷を現地に即して、視覚的に捉えることが可能となった。栄山寺周辺の寺領が、北方へ拡大していく様相が確認された。 こうした新たな分析手法を駆使することにより、従来の肉眼観察的な成果に比較して、より高度な分析情報を獲得できるようになり、絵図や文書の正確な読み取りが可能となった。 古代国家が荘園経営を認定する場合の法的根拠として、氏族の墓や馬を飼育する牧が根拠とされ、官符認定などが必要とされた。額田寺は、額田氏の先祖の墓を絵図に描くことで、寺の北に位置する額田部丘陵全体の占地を承認された。また、栄山寺も藤原武智麻呂の墓域が「延喜式」では東西・南北各15町という違例の広さを有していたことを根拠に、後に官符類を偽作して領有の法的根拠としていた。古代荘園領有の根拠が共通していることを確認したことも成果である。 業績としては、『藤原仲麻呂』(中公新書、2021年)で仲麻呂の父武智麻呂に対する祖先顕彰および栄山寺との深いつながりを論じ、「額田寺伽藍並条里図」(『文部科学教育無通信』540、2022年)で概要を示した。
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