研究課題/領域番号 |
20K01000
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研究機関 | 徳島大学 |
研究代表者 |
荒武 達朗 徳島大学, 大学院社会産業理工学研究部(社会総合科学域), 教授 (60314829)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 山東省 / 地域社会 / 宗族 / 台湾分支 |
研究実績の概要 |
本研究課題は山東省南部のある地域社会を舞台として、20世紀後半へと至る宗族の形成・発展の状況を前提として、特に戦後台湾へと移った族人と山東に残った族人との再凝集の諸相について考察することを目的としている。 今年度発表した「清末民初魯南社會的動蕩與士紳地主」という論文は有力宗族が地域社会を結集し19世紀後半の社会動乱に対処していく過程、宗族の群体の凝集と発展の様相、民国期へと至る地域エリート出現の背景を描出している。これはこの研究課題の前提を整理したものである。 続いて発表した「ある宗族の形成 : 族譜編纂の虚構と事実」はそれよりもやや前の時点を起点とする考察を行った。前年度までの作業で当該地域社会における宗族の形成を議論してきたが、本論文ではその宗族の中でも特に典型例とみなされる一族を抽出し、その成長の道筋を叙述した。一般に宗族研究では“族譜”と称する家族の記録を基本資料とするが、ここではその記述に見える“虚”と“実”を弁別しつつ、宗族の実像に接近する試みを行った。そこから展開して清初の民衆叛乱研究に対して些かの貢献をすることができた。すなわち民国時期に編み出された“民族英雄”像が清初の叛乱者達に投影された可能性を指摘した。そしてこの物語は20世紀後半においても地域社会に共有される物語として再生産されている。 以上刊行した2本の論考で清代から民国期における山東省南部のある地域社会の宗族の形成と発展の過程に関する研究は完了した。 この他、台湾の国家図書館などにおいて戦後台湾における大陸より移住した宗族に関する資料を収集することができた。これらは2024年度の台湾分支に関する考察に有用な情報を提供してくれる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
この研究課題は清代から現代にいたるある地域社会における宗族の形成と発展について考察するものであるが、2023年度までの作業で、清代から中華人民共和国成立に至るまでの宗族の展開過程についてはほぼ明らかにすることができた。 残る課題は戦後台湾へ逃れた山東の族人が再び山東の族人と交流を深める過程の考察である。台湾の民主化が進行し、大陸地区との往来が可能になった1980年代において、「探親」というかたちで台湾から大陸へと親族訪問が行われるようになった。台湾にはこの“大陸行”に関する様々な記録が存在している。2023年度には台湾の政治大学や師範大学、国家図書館などでこれらの資料を多数収集することができた。これらによって2024年度の作業の基礎を構築することができたと考えられる。 以上より進捗状況は概ね順調に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
1980年代に台湾の「山東人」たちの大陸訪問が可能となり、彼らは大陸で見聞きした事、親族たちとの再会と交流の状況を記録に残した。この資料は2023年度の作業で多数収集することができた。 2024年度においては、本研究テーマの課題である20世紀後半における山東宗族の再編(大陸と台湾双方の族人の接近・交流)の諸相の考察に取り組む。すでに収集した資料に加え、新たに台湾の台湾図書館、国家図書館、中央研究院などに収蔵される口述資料、新聞記事を閲覧することで研究の補強を行うこととする。 議論のプロットは次の通りである。かつては同じ一族であったとはいえ、戦後数十年の政治的断絶と台湾・大陸の格差拡大は、族人間に深刻な分断を生み出していた。当初は熱狂的に接近する両岸の人々も、むしろその矛盾の大きさに気付くようになる。また台湾での台湾意識の高揚は、大陸との交流を深めたとしても合流・統一を阻む風潮を生み出した。これからの作業ではその状況の下での諸相を描いていくこととする。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナウィルス蔓延によって海外調査の実施計画に遅延が生じたことによる。2023年度はそれまでの遅延を取り戻すべく台湾の各機関や東京の国会図書館、愛知大学名古屋図書館での調査を行ったが、遅延を完全に解消するには至らなかった。また特に台湾調査ではその過程で収集するはずであった文献等の購入・複写も行えなかった。 よって2024年度には台湾の台湾図書館、国家図書館、中央研究院での文献調査、加えて福岡大学図書館に所蔵されている台湾関係資料の調査を実施する予定である。
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