研究課題/領域番号 |
20K01002
|
研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
小林 亮介 九州大学, 比較社会文化研究院, 准教授 (50730678)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 第一次世界大戦 / チベット / 英領インド / 中国 / ダライ・ラマ政権 / シッキム王国 |
研究実績の概要 |
研究期間の二年目は、前年に引き続きCovid-19の世界的流行の影響を受け、イギリスをはじめ海外における資料調査は実現できなかったが、刊行資料の再検討や、拡充されたオンライン資料の公開・提供サービスの利用を通じて調査を進めた。その結果、まず第一次世界大戦前後のチベットーイギリス関係において極めて重要な役割を果たしたシャタ・ペンジョル・ドルジェ(Shatra Peljor Dorje, c.1860-1919)に関する人物研究を行い、英文・チベット文・日文・漢文史料を比較検討しつつ伝記を執筆し、ヒマラヤ・チベット学英語データベースであるTreasury of Livesに発表した。また、口頭報告「20世紀前半におけるチベット-インド交易の展開とカリンポン」(「『みんな、ここを通った』~戦争・交易・巡礼から見るヒマラヤ交易路の盛衰史」2022年2月12日、アジア・アフリカ言語文化研究所)では、19世紀後半以降、英領インドにより開拓されたシッキム・ルートが、ネパール経由に代わるチベット-インド間の新たな幹線ルートとして発展し、20世紀前半のチベット近代史に大きなインパクトをもたらしたことについて、特に境界都市カリンポンの盛衰と、羊毛交易を通じて台頭したチベット商人たちの活動に注目しつつ解説した。さらに、口頭報告「シッキム王国とチベットの近現代」では、我が国ではほとんど研究蓄積のなかったシッキム王国を取り上げ、英領インドの保護国になって以降のシッキムが、イギリスの対チベット政策の前線において大きな役割を果たしたことを、王族・貴族・僧侶のほか、英語・チベットのバイリンガルを武器に活躍した新興のエリート層たちの姿を取り上げつつ議論した。また、インドにおけるブッダガヤ奪還運動がチベット・ヒマラヤの高僧たちを巻き込んで展開する上で、シッキム人が重要な媒介役となったことを論じた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナ・ウイルス感染拡大の影響をうけ、計画していた海外での史料調査は実行することができなかった。研究課題の内容を調整し、国内から収集・アクセス可能な史料・文献を用いて、第一次世界大戦前後におけるインドーチベット境界地帯の政治・経済情勢に関する検討を進め、研究成果を口頭報告として発表した。しかし、海外での一次史料の調査・収集に基づいた研究を実現することが望ましく、これが実施不能となるなかで、進捗状況に遅れが生じている。
|
今後の研究の推進方策 |
2022年度は本研究課題の実施期間の最終年度となる。ただし、コロナ・ウイルスにかかわる防疫措置は続いており、海外調査の実現見通しは必ずしも明確ではないため、感染状況を注視しつつ、研究期間の1年間の延長も視野に入れている。同時に、今年度から本務校に導入された英領インド政府関係文書のデータベースを用いつつ、論文執筆とオンラインによる学会・研究会での報告等を行う予定である。 また、研究計画に明記したように、前科研・本科研を踏まえた日本語単著の執筆を引き続き進めるほか、前年度同様Treasury of Livesの近現代史データベース構築プロジェクトに20世紀初頭チベット史に関する寄稿を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨年度末に購入予定であった図書が入手できなかったため、そのための費用であった972円を次年度使用額とし、本年度の物品購入費として使用する計画である。
|