研究課題/領域番号 |
20K01018
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
津田 浩司 東京大学, 大学院総合文化研究科, 准教授 (60581022)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | インドネシア / 華僑・華人 / 社会史 / 『民報(Min Pao)』 / 『共栄報(Kung Yung Pao)』 |
研究実績の概要 |
令和3年度も前年度に引き続き、コロナ禍未収束のためインドネシア渡航が叶わず、本研究課題の中心的資料となるべき『民報(Min Pao)』のデータを完全な形で入手することができなかった。そのため、令和3年度の初めに「今後の研究の推進方針」で記した通り、独立期のインドネシア(特にジャワ)の華僑華人社会の実態解明を進めるために、それに先立つ日本軍政期における彼らの歴史経験を軸足にし、その上で後続の時期との間の連続性(と断絶)を明らかにすべく、分析を進めることとした。この方針のもと、主に以下の2点にわたり研究を進めた。 ①独立期にインドネシアで刊行された華僑華人社会に関する資料の分析を進めた。特に、ジャカルタに拠点を置く2つの華僑系団体、すなわちバタヴィア華僑公会、およびジャカルタ中華商会が発行した記念刊行物(それぞれ1948年、1953年刊行)所収の名簿等の分析を通して、日本軍政とそれを挟んだ前後の時期との主要役員の変遷を追った。この作業により、同地の華僑華人社会の指導層の連続性と断絶の一端を明らかにした。なお、この分析結果は、下記②の書籍内に反映されている。 ②『民報』の前身である日刊紙『共栄報』の分析から、日本軍政期のジャワの華僑華人社会がどのように統制・動員されたか、その全貌を明らかにする書籍の刊行準備を進めた。この書籍の原稿は、令和2年度中に大方の執筆作業を終えていたが、令和3年度には国内外の資料の追加分析を踏まえ、独立期初期の華僑華人社会との社会史的連続性に関し大幅な加筆修正を行った。同時並行的に、同書の刊行助成の申請を進めた結果、令和4年度中の刊行に目途を立てることができた。 上記2点に加え、本研究に係る成果として、令和3年度中には国内で2件の口頭発表等を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
コロナ禍の長期化に伴い、インドネシア国立図書館への訪問が引き続き困難な状態となっていることに伴い、本研究遂行のための主資料として想定していた『民報』は未だ完全な形で入手できていない。 そのため令和3年度は、前年度に決定した全体計画の変更方針、すなわち、研究対象の時期の焦点を日本軍政期にまで拡張し、それとの連続性の中で独立期のインドネシア(特にジャワ)の華僑華人社会の歴史経験を解明する、との方針に沿い研究を進めた。具体的には、以下の2点にわたり前進が見られた。 ①独立期のジャワの華僑華人社会の動向を知るための『民報』に代わる資料として、バタヴィア華僑公会(客家系の同郷団体)やジャカルタ中華商会(戦前のバタヴィア中華総商会の後継団体)の記念刊行物を含む資料を入手し、その名簿等の分析を通して、日本軍政期を挟んでジャワ(特にその首都バタヴィア=ジャカルタ)の華僑華人社会の指導層にどのような構成の変化がもたらされたのかを探るための足掛かりを得た。この分析によって得られた暫定的な知見は、後述の刊行物内に組み込まれている。 ②『民報』の前身にあたる『共栄報』(日本軍政下のジャワにおいて、華僑向けとしては唯一発行が続けられた日刊紙)の分析を通じて得られた知見を、書籍としてまとめる作業に注力した。上記①、およびNIOD(オランダ戦争・ホロコースト・ジェノサイド研究所)等のデータベースを活用し、前年度までに大方書き終えていた原稿をさらに大幅に加筆修正した。また、科研費(研究成果公開促進費)への申請作業を進めた結果、令和4年度中の刊行に目途を立てることができた。 以上のように、前年度に引き続き、本研究の趣旨を踏まえた焦点の拡大を行うことで、おおむね順調に研究を推進することができたと判断する。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、前年までに刊行準備を進めてきた書籍『日本軍政下ジャワの華僑社会―『共栄報』にみる統制と動員』を着実に刊行させる。 また、日本軍政期と独立期のインドネシアの華僑華人社会の連続性に焦点を当てたテーマで、国内外で成果報告(論文・口頭発表)を行う。このうちの1件は、オランダ時代末期からジャーナリストとして活躍し、インドネシア独立後は同国の華人ら(特にプラナカン華人)をインドネシア社会の中に積極的に位置づけようと腐心した林群賢(Liem Koen Hian, 1897~1952年)に関する評伝として準備中であり、特に従来謎に包まれていた1940年代前半の彼の活動に焦点を当てる。また年度後半には、国際学会(International Conference on Chinese Southeast Asia Studies)における報告も予定している。 『民報』のデータの完全な形での入手は、インドネシアへの渡航が支障なくできるようになるまでは引き続き困難であると予想されるため、今年度以降も当面は、国内で(/から)入手可能な資料の精査を通して研究を推進する。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度の当初計画では、インドネシアにおける調査(資料入手を含む)のための旅費を見積もっていた。しかしながら、前年度に引き続きコロナ禍が収束せず海外渡航が困難な状況が続いたため、この分を含む多額の未使用金が生じた。 上記経緯により発生した繰越金は、令和4年度中に書籍・資料代として積極的に使用するとともに、海外・国内移動に支障がなくなった場合には、調査および成果公開に関わる旅費として使用する予定である。
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