研究課題/領域番号 |
20K01019
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
佐藤 仁史 一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60335156)
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研究分担者 |
宮原 佳昭 南山大学, 外国語学部, 准教授 (60611621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 近代中国 / 風俗 / 集合的記憶 / 民俗文化 / 口述史 / 水域社会史 / 移住 |
研究実績の概要 |
本研究は近現代中国の長江下流域のうち、太湖流域を中心とする江南地方の風俗論・民俗論について、当該地方の開発過程に即して検討することを目的としている。本研究の柱は、(1)在地知識人や地域指導層による風俗論や地域/歴史認識の内実と変遷に関する文献調査・分析、(2)風俗論に関連する民俗文化の観察調査や景観調査のフィールドワークであったが、新型コロナウイルス感染症の世界的な流行を受けて、2021年度も(2)を実施することができなかったため、計画の変更を余儀なくされた。 2021年度もまた(1)に比重を置き、この地方に特徴的な水域社会における開発と秩序形成の角度から風俗論を捉える着想を発展させ、特に長江デルタ沿海地帯に注目して、当該地域の族譜や文集・詩集、各種公文集、地方志などを収集し、清代民国期の沙田地帯の開発と秩序形成、災害史に関する史料の手がかりを得た。『南匯県竹枝詞』や『海曲詩鈔』といった文学作品の成立背景と意図に着目し、詠み手の秩序意識との関連で詩文の内容を分析し、そこで得た知見の一部を国際学会(オンライン参加)において報告した。 (2)については、2018年夏以降に蘇州西部郊外農村において数回にわたり実施してきた民間信仰に関するインタビュー記録の整理を2020年度に引き続き進め、その一部の読解作業も併せて行った。この調査では既にのべ50人、100時間以上におよぶ録音データが得られており、その後の継続調査が実施できていないため全体としては未完成ではあるものの、(1)とも関連する多くの情報を提供しうるものである。これらのインタビュー記録からは、当該地域における民間信仰組織の運営状況、民間信仰にかかる儀礼の実態、集団化期から改革開放期にかけての農業、農村副業などの実態を知ることが出来、現代中国において民俗文化がどのように変容したのかを総体的に捉えるための貴重な情報を獲得することが可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
「研究実績の概要」でも言及したように、2021年度は新型コロナウイルス感染症の大流行の影響を受け、申請段階で計画をしていた中国江南地方における現地調査や中国・台湾の所蔵機関における文献調査は中止を余儀なくされた。このことが、研究計画全体として「やや遅れている」と総合的に判断した最大の理由である。 しかしながら、2020年度における研究において得られた着想を土台として、2021年度の研究では今後の研究の進展に大きな寄与をなしうる作業を複数行うことができた。特に、水域社会史という概念を大幅に導入し、水域社会としての江南地方というマクロな地域史把握の着想を敷衍して文献史料を読解する視角を得たことの収穫は大きかった。例えば、国際学会の報告で主要史料とした『南匯県竹枝詞』は夙に知られていた刊行史料であるが、水域社会における秩序形成という視角からは従来の研究では殆ど指摘されなかった深い読み込みが可能となった。 また、水域社会史という枠組みの導入によって、既収集の口述記録を別の角度から読み込むことの可能性も得られた。口述記録の大部分は依然として文字起こしされていないため今後の検討を待つ必要があるが、調査再開後の展開に多くの示唆をもたらしている。 以上を総合すると、予定していた現地調査の未実施を除けば、研究全体としては少なからぬ進捗も見られたと言える。
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今後の研究の推進方策 |
新型コロナウイルス感染症の流行状況やワクチンの普及状況、各国政府の入国管理方針を鑑みると、2022年度の海外渡航や現地調査の実施は依然として困難な状況であることが予想される。現地調査の本格的な再開は2023年度以降に期するとして、2022年度は本研究において導入した水域社会史の角度から、(1)文献史料の収集と入力、量的・質的分析、(2)録音データの整理・読解の作業を進める。 (1)については、2020年度・2021年度に進めた江蘇省南匯県の各種地方文献の収集作業を踏襲しつつ、対象範囲を隣県にまで広げて長江デルタ沿海地帯全体動向の把握に努める。2022年度はまた、一部の文献史料を入力して全文データベースを作成した上で、量的な分析や歴史地理学的な分析に耐えうるデータセットを整える。そしてそれを土台として質的な分析に新機軸をもたらしうるような試みを進める。具体的には『海曲詩鈔』という江蘇省南匯県の詩集からそれを執筆した作者、時代、居住地、テキストの特徴などを整理し、それを水域社会の移住と秩序形成という角度から分析する。かような分析の成果は日本語のみならず、外国語論文での投稿を模索する。 (2)については、2021年度に引き続き、未整理の録音のテープ起こしとその読解を進め、現代蘇州郊外農村における民間信仰の復興とそれを媒介とする社会関係の特質の把握に努める。同時にこうした民俗文化の歴史的淵源を考察し、水域社会史の角度から当該地域の秩序形成を考える材料を積み重ねる作業を引き続き進める。また、2024年度におけるこれらの記録の刊行に向けた検討を開始する。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じてしまった理由は、新型コロナウイルス感染症の大流行の影響を受けて海外渡航が制限されてしまったため、申請段階で計画をしていた中国江南地方における現地調査と、台湾の各所蔵機関における文献調査が行うことができなかったためである。したがって、旅費を中心として2021年度内に使用することは適わなかった。 2022年度における使用計画は次のように想定している。(1)2022年度中に海外渡航が可能になった場合。この場合には2021年度に予定していた中国江南地方における現地調査を翌年度分と併せて実施すると共に、上海市や台湾における文献調査を実施するために用いる。(2)2022年度中に海外渡航ができなかった場合。この場合には、現在まで実施してきたインタビューのテープ起こしをある程度纏めて進めるために使用することを計画している。これらの記録を起こすことによって調査の深度や精度も高まるため、申請時の計画と異なっているとはいえ、極めて意義のある支出項目である。また、量的分析に耐えうる文献史料の入力作業を行い、今後の分析に向けた基礎的なデータセットの作成を進める。
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