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2023 年度 実施状況報告書

近現代中国における「風俗」論に関する社会史研究

研究課題

研究課題/領域番号 20K01019
研究機関一橋大学

研究代表者

佐藤 仁史  一橋大学, 大学院社会学研究科, 教授 (60335156)

研究分担者 宮原 佳昭  南山大学, 外国語学部, 准教授 (60611621)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2025-03-31
キーワード近代中国 / 江南 / 水域社会史 / 移住 / 民俗文化 / 系譜意識 / 地方史 / 集合的記憶
研究実績の概要

本研究は近現代中国の長江下流域のうち太湖流域を中心とする江南地方の風俗論・民俗論について、当該地方の開発過程に即して検討することを目的としている。当初設定した本研究の柱は、(1)在地知識人や地域指導層による風俗論や地域認識の内実と変遷に関する文献調査・分析、(2)風俗論に関連する民俗文化の観察調査や景観調査のフィールドワークであった。
2023年度は、(1)に重点を置き、当該地方を特徴づける様々な類型の水域社会における開発と秩序形成の角度から風俗論を捉える着想を発展させ、特に長江デルタ沿海地帯に注目して、既収集の族譜や文集・詩集、各種公文集、地方志などの精読を行い、①清代民国期の沙田地帯の開発と秩序形成に関する論文を複数発表し、②災害と財政に関する研究を進めた。①については、南匯県沿岸地域で編纂された『二区旧五団郷志』という郷鎮志や『南匯県竹枝詞』、『海曲詩鈔』といった文学作品の成立背景と意図に着目し、編纂者の有した地域性・時代性に関する論考を国内外の査読誌に複数発表した。また、中国南開大学歴史学院で開催された“歴史時期人水関係的理論与実践:第四届水域史工作坊”や、中国人民大学蘇州キャンパスで開催された第10回アジア政策フォーラムにおいて、水域社会史に関する新たな知見の一部を報告した。②については、清末南匯県の知県李超瓊が残した日記をはじめとする関連文献の読解作業を進めた。
(2)については、2018年夏から2019年冬にかけて蘇州西部郊外農村において数回にわたり実施してきたインタビュー記録の整理を引き続き進めた。また、香港の市鎮における民間信仰と地域社会との関係やその変遷を行うことで、比較の視点から江南基層社会の変遷を捉えることを試みた。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

1: 当初の計画以上に進展している

理由

2022年度の研究において得られた研究飛躍の転換点となる発想を土台として、2023年度には国内外の査読誌に複数の関連論考が掲載されたからである。すなわち、水域社会史という概念を大幅に敷衍し、水域社会としての江南地方というマクロな地域史把握の視角から文献史料を読解した成果の一部が、『東亜学報』、Cahiers d'Extreme-Asie、『史潮』などに掲載された。申請段階では研究成果の海外への発信として、英語論文1篇、中国語論文1篇、英語による学術報告1回、中国語による学術報告1回を目標として掲げていたが、2023年度の単年度で全てを達成することができたこともまた、本区分を選んだ理由である。このほか、水域社会史という枠組みの導入は、様々な文献史料を従来とは異なる角度から読み込むことを可能性にした。例えば、清末知県の日記『李超瓊日記』、各種の地方志、新聞の記事などがこの方法による読解の対象となり、今後の研究の展開に多くの示唆をもたらした。以上を総合すると、研究全体として大きな進捗があったと判断できる。

今後の研究の推進方策

2024年度の計画は次のように想定している。
(1)2024年の6月1日~8月27日に予定している中国への渡航期間において、北京図書館、中央民族大学図書館、上海図書館、浙江省図書館、杭州師範大学図書館に赴き、関連する文献史料の収集を行う。その際、水域社会の開発と秩序形成という視点から、水辺地域における郷鎮志やその編纂に関わった士人の史料を集中的に収集・読解する。
(2)量的分析に耐えうる文献史料の入力作業を行い、今後の分析に向けた基礎的なデータセットの作成を引き続き進める。例えば、『海曲詞鈔』というテキストの整理によって、元明から清代中期にかけての江南海浜地帯における開発や移住、およびそれらがもたらした生態環境の変化、移住社会における秩序形成を長いタイムスパンで把握することが可能となる。
(3)現在まで実施してきたインタビューのテープ起こしを引き続き進める。これらの記録を起こすことによって、文献史料からは知ることのできない基層社会の民俗や儀礼の実態を理解する手がかりとする。

次年度使用額が生じた理由

端数が残ってしまったので、最終年度である2024年度における成果発信の費用に充てる。

  • 研究成果

    (14件)

すべて 2024 2023 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 1件、 オープンアクセス 2件、 査読あり 3件) 学会発表 (6件) (うち国際学会 3件、 招待講演 1件) 図書 (2件)

  • [国際共同研究] 香港中文大学/香港科技大学/香港理工大学(中国)

    • 国名
      中国
    • 外国機関名
      香港中文大学/香港科技大学/香港理工大学
  • [雑誌論文] 改革開放初期の江南における伝統芸能――海寧県評弾団殷小虹関連史料の紹介2024

    • 著者名/発表者名
      佐藤仁史、高飛、陳明華
    • 雑誌名

      中国都市芸能研究

      巻: 第22輯 ページ: 46-79

    • オープンアクセス / 国際共著
  • [雑誌論文] 被吟詠的地方記憶:従《南匯県竹枝詞》看清末民初江南的水域社会2023

    • 著者名/発表者名
      佐藤仁史
    • 雑誌名

      区域史研究

      巻: 第8輯 ページ: 97-130

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 地方志から近代中国の地域(ローカル)を読む2023

    • 著者名/発表者名
      佐藤仁史
    • 雑誌名

      史潮

      巻: 新93号 ページ: 127-138

  • [雑誌論文] Oral History and the Study of Local Social History in China: The Case of the Rural Society in Taihu Lake Basin Area2023

    • 著者名/発表者名
      SATO Yoshifumi
    • 雑誌名

      Cahiers d'Extreme-Asie

      巻: No.31 ページ: 129-170

    • 査読あり
  • [雑誌論文] 日本明清賦役制度史研究的回顧与展望――山本英史教授訪談録2023

    • 著者名/発表者名
      山本英史・佐藤仁史・尹国花・高飛
    • 雑誌名

      中国社会経済史研究

      巻: 2023年第2期 ページ: 14-30

    • DOI

      10.13469/j.cnki.zgshjjsyj.2023.02.003

    • 査読あり / オープンアクセス
  • [学会発表] The Only Japanese Pow in the Korean War and His Forgotten History in Three Wars, Four Countries, and Five Militaries2024

    • 著者名/発表者名
      SATO Yoshifumi
    • 学会等名
      AAS 2024 Annual Conference
    • 国際学会
  • [学会発表] 江南民俗文化にみる伝統と現代――蘇州郊外の女性進香組織に着目して2023

    • 著者名/発表者名
      佐藤仁史
    • 学会等名
      中国都市芸能研究会
  • [学会発表] 改革開放初期の江南における伝統芸能――海寧評弾団殷小虹関連史料の紹介2023

    • 著者名/発表者名
      佐藤仁史、高飛
    • 学会等名
      中国都市芸能研究会
  • [学会発表] The Sole Survivor: A Japanese POW in the Korean War and His Forgotten Battlefield Experiences2023

    • 著者名/発表者名
      SATO Yoshifumi
    • 学会等名
      HKUST workshop on Korean War POW
  • [学会発表] 清代民国時期江南海浜地区的開発、制度、秩序意識:以江蘇南匯為例2023

    • 著者名/発表者名
      佐藤仁史
    • 学会等名
      歴史時期人水關係的理論與与実践:第四届水域史工作坊
    • 国際学会 / 招待講演
  • [学会発表] デジタル時代の中国地域社会史研究――「水域社会」の視角から2023

    • 著者名/発表者名
      佐藤仁史
    • 学会等名
      第10回アジア政策フォーラム
    • 国際学会
  • [図書] 地方史誌から世界史へ: 近代中国における郷土の著述法ー江蘇南匯『二区旧五団郷志』にみる歴史意識2023

    • 著者名/発表者名
      小二田章(編)、佐藤仁史
    • 総ページ数
      336
    • 出版者
      勉誠社
    • ISBN
      978-4585320289
  • [図書] 日本学者明清賦役制度史研究:日本学者明清賦役制度史研究的回顧与展望――山本英史教授訪談録2023

    • 著者名/発表者名
      鶴見尚弘・呉滔・陳永福(編)、山本英史・佐藤仁史
    • 総ページ数
      557
    • 出版者
      中西書局
    • ISBN
      978-7547520918

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公開日: 2024-12-25  

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