研究課題/領域番号 |
20K01021
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
倉本 尚徳 京都大学, 人文科学研究所, 准教授 (30598298)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 仏教石刻 / 地域社会 / 拓本 / 道宣 / 玄奘 |
研究実績の概要 |
2024年度は仏教石刻目録作成作業に関して、考古発掘報告書や金石著録などを調査しデータベース入力作業を継続し、既に入力したデータの見直しや確認作業も行った。研究に関しては、石刻のより詳細で多角的な研究を行うため、4月から人文科学研究所にて「隋唐石刻資料の研究班」と題する共同研究班を主催者として開始し、おおよそ月に2回のペースで研究会を開催した。拓本実物に基づく石刻文字資料の解読を進め、共同で訳注を作成した。研究班でとりあげた隋の龍蔵寺碑と詔立比丘尼寺碑は、ともに隋文帝による寺院建立の詔に言及しており、中央の仏教興隆政策に対する地方の反応を伺う好個の事例である。詳細な訳注の作成作業によって、仏教の対抗勢力として道教を意識していることや、地方官が地域社会の有力者をとりこんで求心力を高めようとする努力が碑文に如実に表れていることが分かってきた。今年度取り扱った石刻拓本の釈文や訳注をまとめて公開する予定である。 研究発表としては、8月に台湾の覺風佛教藝術文化基金會主催の夏期セミナーにて、玄奘と道宣、皇帝との関係を考える際の仏教石刻碑文を扱った研究報告を行った。玄奘帰国後の皇帝との関係の推移については、最新の考察を加え「玄奘ーーその理想と現実」という論考にまとめた。11月には、台湾中央研究院文哲研究所主催の国際会議にて、「唐初宗教政策影響下的造像活動 」と題する研究報告を行った。台湾訪問の機会を利用し、中央研究院傅斯年図書館にて、隋唐仏教石刻拓本調査を二度行った。 これ以外に、昨年から継続して研究を行っている初唐長安仏教界の中心人物である道宣についても研究を進め、その思想の核心である、いかに仏法を護り伝えていくかという三宝住持の思想の年代的推移についても考察を深め、「晩年の道宣による天竺中土説の克服―――見えないものによる三宝の住持と見えるものとの感応 」という論考にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
初唐の仏教石刻データは膨大であり、目録のデータ漏れの補いや整理・見直し作業に当初の予定よりも時間を要している。当初予定していた現地調査については、covid19の影響による入国制限が緩和後も中国大陸での希望する調査が困難な状況が続いている。したがって研究も既存の文献資料や考古発掘成果報告書・図録が中心であり、文物の実見による調査研究ができていない。 一方で、2024年度は当初計画していなかったが、隋唐石刻に関する共同研究も新たに行うことができた。年度初めから「隋唐石刻資料の研究班」と題する共同研究班を開始したことで、仏教石刻研究に関しても、専門分野の異なる約三十名の研究者の協力を得ることができるようになった。これは、今後の研究の発展につながる大きな成果である。また、中国での現地調査の代替として、初唐の長安仏教界の中心人物の一人である道宣の研究を進めることができたのは当初予定していなかった成果である。
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今後の研究の推進方策 |
初唐仏教石刻の目録作成作業に関しては、入力作業補助者の協力を得てデータの整理と見直しを早急に行い、公開できるようにデータの整形をすすめる。 また、隋の仏教石刻に関しては、隋唐石刻資料の研究班で得た知見も加え、国内の学会にて隋代の定州仏教に関する研究報告を行う予定である。初唐の高宗期の仏教石刻に関しても、研究を蓄積してきた善導浄土教と初唐の王の関係に関する研究報告を台湾の国際会議で発表予定である。 中国での現地調査に関しては、現地の資料の公開状況に関する最新の情報を収集し、関係機関と事前に連絡をとり、期待した成果が得られるかどうかを判断した上で、実施するかどうかを決定したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初予定していた海外調査が行えなかったことと、目録作成と入力の見直し作業に予想よりも時間がとられており、印刷用の原稿作成が遅れているため残額が生じた。次年度は海外調査あるいは目録の製本印刷に使用したい。
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