|
本研究「近代インドにおける装身品と嗜好品：国内市場志向型低価格商品の勃興とその模造的文脈」では、植民地期のインドで、中下層の人々の自立化傾向を背景にした低廉な価格帯での様々な物品消費が台頭した際に、西欧諸国からの輸入商品を模倣しつつも一定の趣向性を伴った差別化が施された模造的文脈が生じたことを、事例に則して実証的に明らかにした。研究成果は、社会経済史学会や日本南アジア学会などを通じて、発表している。
具体的には、従来からの自身の研究を継承・発展させた装身具などに加えて、あらたに、傘と干し魚に焦点を当てた。傘については、とくに日本からの低廉価格帯で完成品や部分品（手元の柄）がインド市場に急激な流入を見たことや、それが、イギリスからの輸入洋傘の独占を切り崩していった事実を見出した。また、傘柄について、その多くが近畿地方一円の山林から搬出された事実を見出し、さらに、日本人の木材加工業者と神戸滞留のインド人商人の結びつきも、新たな一次史料により明らかにしつつある。干し魚については、一定期間の保存が可能であったことから19世紀中葉に年季契約労働者の在外移民への配給食として提供され始め、それに呼応して、インド南部やセイロンで製造が拡大した経緯を明らかにした。また、マッチについては、新たに兵庫県中西部の日本人中規模業者の一次史料を見出して分析を行い、インド向け輸出品の製造の文脈を明らかにした。
また、この間、商品/物品の製造を支えた資源とそれを取り巻く環境の問題の歴史研究に、新たに取り組み始めた。具体的には、インド洋海域における真珠や法螺貝、珊瑚の乱獲や海洋環境の動態が装身具製造に与えた影響について歴史的な検証作業を始めている。また、マッチについては、あらたに北海道や樺太、沿海州地域からの軸木の供給の文脈を重視して広域アジアの森林資源と産業動態の相関について検証を進めた。
|
