最終年度である令和4年度は、コロナ下で果たせなかった海外での資料調査を行うことができ、課題遂行に必要な現地でしか閲覧できない18世紀前半の手稿文書や印刷本を読むことができた。具体的には、8月中旬から9月下旬にかけてのフランスでの調査において、パリの国立図書館はもとより、ロレーヌに位置するナンシー市立図書館やロレーヌ・エ・バール公国の18世紀初頭の王宮であったリュネヴィルの博物館に所蔵されている資料に、現地のアルシヴィストの助力を得てアクセスでき、手稿文書を含む貴重資料の調査、蒐集を遂行することができた。それらはグラフィニ―夫人に関係する近年の成果のみならず、2000年以降に発掘された肖像画や手稿文書に関わり、大変貴重な成果であった。またグラフィニ夫人がリュネヴィル宮に勤務していた期間に交流のあったヴァランタン・ジャムレ・デュバルの地方での研究や出版物について情報を得て蒐集できたことも重要な成果の一つである。 期間の全体にわたっては、コロナの影響で現地調査が最終年度になってしまったこともあり、日本で可能な文献の整理とフランス近世期に関連する周辺の既存の成果をたどることに終始したが、模索は無駄ではなかった。とくに2020年に発表した論文「オーラルとエクリの間からの創造――啓蒙期フランスのフランスの作家グラフィニ夫人の場合」(『エゴ・ドキュメントの歴史学』所収)への反響が予想外に大きかったこともあり、この論稿を土台にすることで、さらに当時の書物をめぐる公共空間や『ペルー人女性の手紙』に連動して出された海賊版や続編と称する関連本などの調査の考察を進めることで、啓蒙期のコミュニケーション回路と感情形成の関係について書籍にまとめるべく研鑽を続けている。今後はさらなる調査を現地でも進め、執筆に向けて注力する予定である。最終年度の調査はその意味でも非常に重要な弾みとなったと考えている。
|