研究課題/領域番号 |
20K01034
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
土屋 和代 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (60555621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 人種・エスニシティ / ロスアンジェルス / アメリカ合衆国 / 都市 / ジェンダー / インターセクショナリティ / 社会史 / 歴史学 |
研究実績の概要 |
本年度はまず、 ①現代アメリカで声を上げた女性たちの軌跡を辿りながら、人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティが交差する様を描いた共著を出版した(『私たちが声を上げるとき―アメリカを変えた10の問い』)。カリフォルニア州最古の黒人新聞の一つ『カリフォルニア・イーグル』紙の編集者・発行者を40年にわたり務め、黒人、メキシコ系移民、労働者、女性の権利のために闘ったシャーロッタ・バスの章の草稿、および第二次世界大戦後のアメリカにおいて「学問の自由」をめぐって最も激しい対立を巻き起こした出来事の一つであるカリフォルニア大学ロスアンジェルス校におけるアンジェラ・Y・デイヴィスの解雇/雇止めをめぐる事件を取り上げた章の草稿を執筆した。 ②ブラック・フェミニズムの思想的展開とインターセクショナリティという概念の形成を、具体的な活動家、知識人の軌跡をたどることで検討した小論を刊行した(「ブラック・フェミニズムとインターセクショナリティ―人種、階級、ジェンダー、セクシュアリティ」『「いま」を考えるアメリカ史』)。 ③『環太平洋地域の移動と人種―統治から管理へ、遭遇から連帯へ』に寄稿した小論を加筆・修正し、英語論文にまとめた。1992年のロスアンジェルス蜂起に関する「多人種暴動」という人種化された表象が何を隠蔽するのかを明らかにしつつ、「当事者」内部の亀裂を隠すことなく「当事者」のことばを通して蜂起を重層的に描く試みとして、脚本家で俳優のA・D・スミス(Anna Deavere Smith)の作品『薄明かり―ロスアンジェルス、1992』を分析した(“The 1992 LA Uprising and the Politics of Representation: Multilayered Memories in Twilight: Los Angeles, 1992”)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度も新型コロナウィルスの感染拡大により米国で研究調査、史料収集を実施することが出来なかったものの、史料や文献を取り寄せるなどして、研究を進めた。「研究実績の概要」で記したもの以外に、奴隷化される以前の時代から現代にいたるまでの黒人女性の経験を辿りつつ、黒人女性の「視点」を通してアメリカ史を再解釈した歴史書を兼子歩氏、坂下史子氏と共に訳した(ダイナ・レイミー・ベリー 、カリ・ニコール・グロス 著『アメリカ黒人女性史―再解釈のアメリカ史・1』)。また、黒人研究学会例会で本書について紹介した(「黒人女性史叙述の最前線-ベリー&グロス著『アメリカ黒人女性史』の翻訳書刊行によせて」、黒人研究学会例会、2022年10月15日)。
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今後の研究の推進方策 |
2023年度もこれまでに収集した史料を活用しつつ、必要な史料、文献を取り寄せ、研究を進める予定である。 ①まず、ロスアンジェルスの公共交通機関であるMTA(Metropolitan Transportation Authority)バスを利用する低所得者の住民のために結成され、人種平等、労働者の権利、環境正義のために闘ったバス・ライダーズ・ユニオン(Bus Riders Union)の活動について調査を行う。 ②また、メキシコ系アーティスト、教育者、活動家のジュディス・バカが世界最長の壁画「グレート・ウォール・オブ・ロスアンジェルス」を通してどのようにロスアンジェルス、カリフォルニア、アメリカ社会像を描いたのか、「民衆」のためのアートを生み出したのかを引き続き検討する。 ③ロスアンジェルス史、都市研究、大量収監社会に関する研究書、およびインターセクショナリティに関する文献を読み進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大により米国で研究調査、史料収集を実施することが出来なかったため次年度使用額が生じたが、2023年度に書籍やパーソナルコンピューターの購入、史料の取り寄せ等に用いる予定である。
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