研究課題/領域番号 |
20K01035
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
芦部 彰 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 講師 (00772667)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 西ドイツ / 領土 / ザールラント / ナショナリズム / 欧州統合 |
研究実績の概要 |
令和3年度は本研究課題の二年目であり、昨年度の成果を踏まえつつ、研究基盤をさらに固めることが中心となった。昨年度につづき、新型コロナ感染症の影響によってドイツでの文献収集と史料調査を行えなかったため、国内で入手ないし閲覧可能な文献や史料に限定されたが、先行研究の整理と同時代刊行物を中心とする史料の検討を行った。 本年度は、ザールラントにおいてドイツ帰属を主張した集団、そのなかでも、1955年の住民投票でドイツ帰属に向けた運動を牽引した自由主義右派の系譜をひくザール民主党と、その指導的政治家ハインリッヒ・シュナイダーの主張の検討が中心となった。 シュナイダーをはじめとして、ザール民主党の指導者にはナチ体制下でナチ党に入党していた者が多く、「ヨーロッパ化」案を支持するホフマン自治政府が反ナチ抵抗運動の活動家を中核としていたのと対照的であった。その一方で、シュナイダーらザール民主党は、ホフマン自治政府が反対派の活動に制限を加えたことを集中的に批判することで、自らが言論や集会の自由など基本権と民主主義を尊重する集団であることを強調した。また、欧州統合に関しても国際組織・超国家組織には賛成を表明し、「ヨーロッパ化」案への反対を、加盟国間の平等を重視する主張として提示した。こうした冷戦体制下の西側諸国に受け入れられやすい理念や規範と組み合わせて主張を展開することで、ナショナルな主張の正当化が試みられていたことが注目される。 この点に関連して、シュナイダーは1935年の住民投票の際にも小冊子を発行するなど、ザールラントのドイツ復帰のための活動を行っており、他のドイツ帰属派にも1935年住民投票からの連続性が確認できた。ここから、ドイツ帰属派の立論と正当化の論理の考察を深めるため、1935年住民投票と1955年住民投票での主張の異同に注目して、さらに検討を進める。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
ドイツでの史料調査を行えなかったため、研究に利用できる研究文献や史料は国内で入手可能か閲覧可能なものに限定された。また、研究文献や同時代刊行物などの史料の入手に際して、ドイツからの到着が遅れることも少なくなかった。
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今後の研究の推進方策 |
基本的に申請時の研究計画にしたがって研究を進める。ここまでドイツでの史料調査を実施できておらず、新型コロナ感染症の動向を見通すことは依然として容易ではないものの、令和4年度にはドイツで史料調査を実施できる可能性がある。この点について、昨年度と本年度に先行研究を整理し、刊行史料集や同時代刊行物などの史料を検討してえられた研究成果を活かして、文書館で閲覧・収集する史料群の選定を進めることで、ドイツでの史料調査を円滑に実施できるようにする。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画案で予定していたドイツでの史料調査を実施できなかったため、このための出張旅費分が未使用となった。この分は文献、刊行史料の収集に使用することで、研究遂行に活用したものの、次年度使用額が生じることになった。 次年度には、ドイツでの史料調査を行う際に、当初から予定していた史料調査の旅費に当該助成金を加えて使用する予定である。 ドイツでの史料調査がなお困難な場合には、本年度の経験をふまえつつ、国内での文献の収集と、海外からの文献・史料の入手に使用することで、研究の円滑な遂行に活用する。
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