研究課題/領域番号 |
20K01036
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研究機関 | 一橋大学 |
研究代表者 |
増田 都希 一橋大学, 大学院経済学研究科, 特任講師 (50760633)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | マナーブック / マナー / 交際・商業社会 / 規範 |
研究実績の概要 |
本研究では、18世紀後半フランス社会を、有形・無形の不断の交換活動と交換活動が築く相互依存関係を基盤として発展を目指す「交際・商業社会」と捉え、その実相をマナーブックの分析から捉えることを目的とする。 実施計画は(1)18世紀後半の「マナーブック」の内容分析、(2)同時代の政治経済論と(1)との比較分析、(3)競売カタログを用いた「マナーブック」の所有実態調査、(4)フランス革命期の「マナーブック」の史料開拓であった。しかし、フランスでの現地調査再開の目処の立たない中で計画を大幅に変更し、新たにデジタル・ヒューマニティーズの手法を試みた。具体的には、言語解析(テキスト・マイニング)によって、上記(1)について、作品中で用いられる頻出語、それらの連関性等についての数量的調査を実施し、さらに、その結果を踏まえての質的分析を行った。本手法の採用による最大の成果は、当時の「マナーブック」の実相とその変容を数量的に可視化することができた点である。これまでに注力してきた質的分析との併用によって、(1)(2)の分析の一層の深化が期待できる。この数量的分析の体制の整備が2021年度の成果である。 併行して、フランス史に関する一般書『世界史を変えた40の謎』の翻訳(共訳)も行った。マナーの歴史を描くことは、歴史的産物としての規範意識を分析することだが、本書における翻訳担当章は、16世紀フランスにおける死、暴力、信仰、恋愛、人種をめぐる規範意識にかかわる論考であり、本研究との間接的関連性が認められる。本研究の分析対象時期からは外れるが、以上の理由から翻訳作品の刊行に携わった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
本研究の3年間の実施計画の中で、2、3年目には国外調査が再開できるだろうとの見通しを立てていたが、その目処が立たない中で研究計画を大きく見直すこととした。その結果、国内で実施可能な分析の中でも、膨大な時間と費用がかかるためにこれまで躊躇してきた言語解析に着手したことが、遅れの最大の原因である。上述の研究計画における4点のうち、(2)から(4)を一旦休止しての計画変更であったこと、実際の解析に先立つ準備作業に学生アルバイトの協力を得なければならない等、準備作業に相当の時間を費やしたことから、2021年度は研究の体制整備に多くの時間を割く結果となった。とはいえ、新しい分析手法を採用したことで、当初予定とは異なる方向での研究の深化と進展が見込まれる。
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今後の研究の推進方策 |
引き続き、フランスでの現地調査および国内の他大学図書館での調査の見通しが立てづらいこと、2021年度より開始した言語解析に手応えを感じていることの2点から、研究計画を見直す。 具体的には、以下の2点を中心に実施する。第一に、(1)、(2)の作品についての言語解析に注力する。2021年度から、1730年代以降の数作品について分析を進めており、これを1780年代までの作品に順次拡大していく。すでに必要な環境が整備されていること、準備作業にあたるアルバイトの研究補助員がある程度確保できていることから、昨年度よりはスムーズな進行が期待できる。 第2は、これまで進捗に遅れが生じていた(3)「競売カタログ」分析を併行して進める。すでに史料の電子複写の取り寄せは進めており、まずは1750、60年に分析対象時期を限定して行う。 以上の研究計画の変更によって、助成金の主要使途についても以下2点が変更となる。第1に「旅費」の執行はおそらく限定的であると思われるが、国内・国外情勢の変化によって、さらなる変更もあり得る。第二は、「人件費」である。2021年度に引き続き、言語解析の準備作業にあたる研究補助員の雇用のため、予定を大幅に上回る「人件費」を計上する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用が生じた最大の理由は、国内・国外調査および学会参加のための旅費の執行がまったくなかったためである。2022年度も同様の状況が続くと思われるため、旅費での執行は限定的であることが予測される。 代わりに、2021年度より開始した言語解析のための準備作業として、研究補助員の人件費を執行する予定である。2021年度は初めての分析手法の採用のため、予備的作業や研究環境の整備等に時間を費やしたが、2022年度はよりスムーズな予算の執行と研究の進捗が期待できる。
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