研究課題/領域番号 |
20K01042
|
研究機関 | 埼玉学園大学 |
研究代表者 |
伊藤 栄晃 埼玉学園大学, 人間学部, 教授 (60213071)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | カリブ海 / 砂糖プランテーション / アフリカ系奴隷 / ジェンダー / レイシズム / リプロダクション / 奴隷制度廃止 / 人口政策 |
研究実績の概要 |
19世紀前半イギリスにおける奴隷貿易と奴隷制廃止について、近年の研究では本国の奴隷制即時廃止論者から西インド奴隷制プランテーションのプランターおよび西インド派政治家に至るまで横断的に、アフリカ系奴隷の人口学的再生産(リプロダクション)の失敗の主因をアフリカ社会に固有の「多婚制」polygamy慣習に求め、彼らの人口増加と奴隷労働力の不足問題への対処方法として、アフリカ系奴隷の間にヨーロッパの「単婚」monogamy習慣を広めることこそが肝要であるとする考え方が広まっていたことが明らかにされている。 これは、従来の反奴隷制運動を単に人道主義的な救済運動とみる見方の一面性を指摘し、一方でアフリカ人のセクシュアリティを「不道徳」として否定するイギリス社会の支配層・知識層の文化的価値判断の在り方にかかわる諸問題、他方でアフリカ系奴隷社会におけるジェンダーにかかわる諸問題を提起している。前者の問題としては、例えば男性を主とし女性を従とするヨーロッパのキリスト教的「単婚」文化の社会から見た「多婚」文化の評価という異文化接触の問題が提起される。他方後者の問題としては、アフリカの故地では家族内で世帯主的な立場である女性(妻・母)が、西インドのプランテーション奴隷社会では、奴隷労働者の最下層に留まらざるを得ない矛盾の問題が提起されている。 現在の反奴隷制思想・政策の歴史研究は、今日の異文化接触やジェンダーなどのテーマについての多様な研究成果を踏まえ、重層的な問題提起がさまざま為されているに至っている。今研究プロジェクトは、男性プランターが見る女性奴隷のビヘイビア、ならびにイギリス人女性とくに奴隷貿易廃止運動に参加した女性が見る女性奴隷のビヘイビアなどを、本国による奴隷労働人口政策という観点から照射し、彼らの著作・パンフレット・書簡などから解明することが目的である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
令和2年度当初からの新型コロナウィルス感染症の世界的な蔓延により海外渡航ができなくなり、本研究プロジェクトにおいて重要な位置づけにあったイギリスにおける資料調査ならびに同国やアメリカ合衆国における研究者との情報交換や研究交流が果たすことができなかったため。 結果、資料調査という点では、わずかにイギリス・オックスフォード大学附属ボドレー図書館ならびに同国ブリストル大学附属図書館とは、スタッフが対応可能な時に、インターネットを介して連絡し資料の所在やその利用可能性などを確認できたに留まる。 この当初予期できなかった事態に際会し、作業の手順をやや変え、令和2年度は日本国内で入手可能な文献収集とともに本研究プロジェクトのテーマに関する最新の研究成果の修得に注力した。それにより、予想通り近年では奴隷制反対論者の「女性」と「貧困」とに関する考え方についての、実証的な新しい研究展開が見いだされた。
|
今後の研究の推進方策 |
今年度中に新型コロナウィルス感染症の世界的な流行が収束に向かいイギリス・アメリカ合衆国への渡航制限が大幅に緩和されることを前提にして、令和2年度に果たすことができなかったイギリスでの資料調査ならびに同国やアメリカ合衆国での研究調査報告などをぜひとも実現させたい。また欧米現地の研究者との交流を本格的に再開し、そこでの未発表研究や調査プロジェクトの情報を可能な限り収集し、最新の研究動向の把握にも努める。 他方今年度(令和3年度)もコロナ感染症の世界的な蔓延状態が続き、海外渡航が困難な状態に変化がない場合には、昨年度から進めている文献資料の調査と最新の研究成果の消化作業を継続するとともに、海外の研究者や文書館・図書館スタッフとのオンラインでの情報交換を進める。
|
次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:当該年度(令和2年度)には、世界的な新型コロナウィルス感染症の流行とそれに伴う海外渡航の大幅制限という当初予想できなかった事態の発生により、計画していたイギリ日本政府によるス・アメリカ合衆国における研究調査ならびに現地研究者との研究交流が実施できず、その分の助成金の使用ができなかったため。 次年度使用計画:次年度(令和3年度)には、コロナウィルス感染症流行の一程度の鎮静化と日本政府による海外渡航制限の緩和とを前提として、昨年度(令和2年度)には実施できなかったイギリスでの資料調査研究と同国並びにアメリカ合衆国における研究者との研究交流を果たすことを計画している。現在英米両国ともワクチン接種の進展により感染状況が落ち着きを取り戻しつつあり、大学や研究施設、大学附属図書館、それに国公立の公文書館などの業務が再開され始めている。まずは、オンラインでの資料情報や最新の研究情報の取得・交換に努める。そして可能ならば、渡航しての直接の調査並びに研究交流を実現させたい。
|