最終年度には、大西洋奴隷制および奴隷貿易関連の史料を組織的に収集している英ブリストル大学附属「人文・社会科学図書館」階上の特殊文庫(Special Collections)所蔵の文書類の調査を実施した。対象としては2つの文書を予定し、一つは英領ネイヴィス島で18世紀後期に砂糖プランターだったジョン・ピニー関連文書なかんずく「奴隷登録簿」および「農園業務日録」、いま一つは奴隷制・奴隷貿易廃止運動の指導者ウィリアム・ウィルバーフォースの書簡類である。このうち前者「ピニー家関連文書」は、すでに2度予備調査を実施し、その調査結果は『「埼玉学園大学紀要 人間学部編』にて暫定的に公表している。今回は時間の制限により十分に調べることができなかった「農園業務日録」の全頁書写を実施することができた。それにより「奴隷登録簿」データと「日録」データとの資料連結分析をようやく実施できる環境が整った。他方後者のウィルバーフォース書簡類は、最近この図書館に所蔵されたばかりの史料の一つで、今回初めて資料調査ができたものである。とくに注目されたのは西インドのプランターであるピニー家とウィルバーフォースとの往復書簡で、政治的・思想的に対立関係にあった両者間にどのようなやり取りがあったかは、英国におけるアボリショニズム運動の研究において重要なポイントになると思われた。それらは大判の紙箱に収納されており、量的に一度の調査では到底調べつくすことはできないこと一見して明らかであった。そこで両者間の主要な論点が、ウィルバーフォースの娘とピニー家の男子との婚姻に絡むプライベートな問題であることを発見し、その関連の書簡18について書写を実施した。本研究期間はコロナウィルスCOVID19の世界的な流行で十分な史料の現地調査はできなかったが、以前収集したバラム家文書・ソープ家文書との比較検討が可能なデータを得ることができた。
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