研究課題/領域番号 |
20K01045
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研究機関 | 武蔵大学 |
研究代表者 |
踊 共二 武蔵大学, リベラルアーツアンドサイエンス教育センター, 教授 (20201999)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 再洗礼派 / ジェンダー / 女性 / 宗教改革 / スイス |
研究実績の概要 |
2022年度はヨーロッパ各地(とりわけ再洗礼派が集住していたスイス、ドイツ、オランダ、プロイセン西部、モラヴィアなど)の事例を個々に調べ、女性信徒たちの教会共同体における役割、社会的役割、家庭での役割等を明らかにする調査を進めた。コロナ禍で延期していた現地での資料調査も3月に行うことができた。スイスのチューリヒおよびベルンの公文書館、グロースミュンスター聖堂の初期印刷本(ツヴィングリ訳のドイツ語聖書や神学書)のコレクション等である。なお再洗礼派運動には16・17世紀の民衆世界のジェンダー理解が影響している可能性が高いので、民間伝承のなかの女性像を探るためにスイス連邦博物館のアルプスの伝説に関する特別展を見学し、関係する資料を集めた。そこには呪術や民間医療の分野で自律的な活動を展開した女性たちにまつわるロアが数多く含まれており、再洗礼派の女性が「預言」や「説教」を行うことを可能にする文化的背景が見いだされる。宗教改革運動・再洗礼主義とジェンダーのテーマについては、『岩波講座世界歴史』15巻(第3期・岩波書店)の「宗教改革とカトリック改革」の章を担当し、そこでも概観的に言及している。また『西洋史学』274号に掲載した論文でも、単身の再洗礼派女性たちの空間的移動・移民の能動性に触れている。さらに『キリスト教神学命題集』(教文館)に「ミヒャエル・ザトラー」(スイス再洗礼派の指導者の一人)に関する記事を書き、この人物の妻マルガレータが果たした役割と彼女の殉教の死(ネカー川での水死刑)に触れ、再洗礼派の女性の行動力の一例を示した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本科研は2020年に深刻化したコロナ禍の影響で海外調査が予定どおり進まず、すでに入手している一次史料、電子化の申請によって海外の研究機関から入手した一次史料ならびに新しい研究書や論文を材料にした国内での研究を中心とすることになった。ただし海外調査(スイス)は2022年3月に実施することができ、かなり多くの新しい材料を得た(この調査は別科研の出張とワークショップでの報告と組み合わせて行い、効率化を図った)。進捗状況はおおむね順調であり、書籍および論文の形での成果発表も複数おこなうことができた。
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今後の研究の推進方策 |
18世紀後半から北米(とりわけペンシルヴァニア、カロライナ、ヴァージニア、オハイオ、インディアナ、オンタリオ方面など)に亡命ないし移住した再洗礼派(メノナイト、アーミッシュ、ハッタライト)についての調査を行う課題が残っている。北米での現地調査を行う予定である(メール等での研究者間交流と情報取得はすでに進めている)。なお北米についてはイングランドから到来したクエーカーやシェイカーとの接触の度合いが強かったグループに女性の社会進出に関する積極性がみられ、またエフラタ・クロイスターのような(敬虔主義と神秘主義の影響を受けた)独身者たちの共同体にあっても男女の平等化の傾向があるとの見通しを得ているので、そうしたグループと再洗礼派の交流の諸相も明らかにしたい。教会運営とりわけ牧師や長老の選出の前に行われる「推薦」のさいに女性を事実上排除した共同体と女性を参加させた共同体があるとの見通しも得たので、教会規則(オルドヌング)や年代記を用いて実例を示す研究を行いたい。北米については、現在も存続している再洗礼派家系のファミリーヒストリーにも取り組む(日記、書簡、口承のファミリーロアが研究対象である)。北米のスイス系再洗礼派の子孫たちがヨーロッパ(とくにスイス)の親族や歴史的記念の場所を訪問するヘリテージツアーにおいては女性のコンダクターが数多く働いており、この伝統がどのようにして形成されたかも調査する予定である。成果発表としては日本西洋史学会の小シンポジウム(5月)、日本ルター学会での講演(11月)および複数の書籍・事典類の出版を予定しており、出版社と調整中である。
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