18世紀後半以降に欧州から北米に渡った再洗礼派(メノナイトとアーミッシュ)の女性の役割に関する現地調査を行い、史料の分析を行った。エリザベスタウン大学の再洗礼派研究所のスティーヴン・ノルト教授の助言を受け、現地で貴重史料の複写を行った(女性の執事と牧師に関する記録が中心である)。ランカスター郡の Mennonite Information Center (Mennonite Life)ではスイス移民が持ち込んだ書籍・冊子や19世紀の古い家族写真、教会前での集合写真等を閲覧した。アクロン市の現役のメノナイト派女性牧師レイチェル・ノルト氏から女性聖職者のリーダーシップの実践にどのような困難が伴うかについて聞き取りを行った。 再洗礼派教会では16世紀の段階では女性による宣教活動、預言、説教、執事としての共同金庫管理、救貧活動が広範囲に行われ、殉教者として名を残した女性も多かったが、17~18世紀に教会が整備されるにつれて男性中心の体制に移行し、19世紀に保守化の極みに達するが、メノナイトにおいては女性執事の伝統が残り、遠隔地への伝道に女性が活躍していた事例が見つかった。アーミッシュの世界でも牧師(監督)の「候補者指名」における女性の提案権が残りつづけていたことも確認できた。ただしアーミッシュは女性牧師を現在に至るまで認めておらず、メノナイトの場合もようやく20世紀後半になってこれを認めた点で再洗礼派は全体として進歩的とは言えないことがわかった。しかし意識と制度の変化は確実に進んでおり、反動的な「宗教右派」とは異なることが理解できた。研究成果の一部は口頭で日本西洋史学会の小シンポジウム(5月21日)、日本ルター学会での講演(11月25日)に反映させ、現在、複数の論文、研究ノート、著書(単著と共編著)を準備している。
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