研究課題/領域番号 |
20K01046
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研究機関 | 愛知学院大学 |
研究代表者 |
轟木 敦子 (中村敦子) 愛知学院大学, 文学部, 教授 (00413782)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | アングロ・ノルマン / 貴族 / 中世イングランド / 中世ウェールズ / 中世ノルマンディ |
研究実績の概要 |
本研究者の研究の長期的課題は、11・12世紀イングランドとノルマンディにまたがるアングロ・ノルマン王国を対象に、アングロ・ノルマン期貴族たちの活動をたどり、その変化とともに当時の社会の中に位置づけることである。調査の中心としているのは、ノルマンディに拠点をもち、ノルマン征服後イングランドに進出し、イングランドにもノルマンディにも広大な領地を保有していたチェスター伯家系であるが、同家系と関連をもつ貴族家系、また王・公といった支配者も当然対象となり、彼らのネットワークの在り方とその変化のダイナミズムを探る。 今年度の研究成果としては、ウェールズ境界地域におけるチェスター伯の政治活動の分析をあげる。具体的な対象は、12世紀のチェスター伯であるレナルフ2世とした。同伯は、スティーヴン治世の内乱期と呼ばれる12世紀半ばイングランドの混乱状況における活動が知られているが、本稿ではこれまであまり注目されなかったレナルフ2世のウェールズ政策に着目し、イングランド側対ウェールズ側といった対立構図でとらえられがちだったこの地域の貴族たちの関係が、複雑で流動的に絡み合ったものであったことを示した。この研究成果は、2021年度中に刊行予定である高田京比子他編著『ヨーロッパ中近世史のフロンティア』昭和堂に、第15章 論文「スティーヴン王治世の内乱期におけるチェスター伯レナルフ2世とウェールズ境界地方」として刊行予定である。また、これらの貴族間ネットワークには、直属封臣より下のレベルの貴族たちの地域に根付いた活動を分析する作業が必要と感じられたため、チェスター伯家の初代であるヒューの封臣たちについての研究を進めた。その成果は、2021年9月刊行予定の、『愛知学院大学 人間文化研究所紀要 人間文化』36号にて公表の予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
(3)やや遅れているとした理由 進捗がやや遅れているとした理由として、まず、外的状況としては、コロナ禍により 、予定していた渡欧調査ができなくなったこと(海外の調査機関も休館し情報が得られないなどの問題があった)、学務の激変に対応しなければならなかったことなどがあげられる。また、研究計画に関わる状況としては、資料・文献の収集調査に予想以上に時間がかかっていることがあげられる。 今後の方針として、作業はいささか遅れているが、研究計画の全体の大きな方向性については、大きく変更する必要はなく、微細な修正のみで対応できると考えている。今後も史料や文献の収集は継続する。一方、方向性は変更せずとも、チェスター伯の封臣たちのレベルで調査できるレベルはやはり限られることが実感できたため、チェスター伯と同様の直属封臣レベルの貴族たちとのネットワークの調査に中心を置くことで、対象をややずらして分析を進めていく予定である。
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今後の研究の推進方策 |
次年度以降は、イングランドとウェールズの境界地域の研究と並行し、ノルマンディ境界地域の調査に入る予定である。アングロ・ノルマン期のノルマンディの境界地域に関しては、D. Powerの The Norman Frontier in the Twelfth and Early Thirteenth Centuries (Cambridge, 2004)やM. Liebermannによる’The Medieval “Marches” of Normandy and Wales’, English Historical Review, 125 (2010)などの重要な先行研究があり、それらを利用することができる。とくに、本研究の分析の中心であるウェールズ境界地域に基盤を持つチェスター伯家の所領は、ノルマンディ中西部に拡大しており、ノルマンディ側の境界地域の政治状況も深くかかわるため、そのネットワークの在り方をウェールズ側とノルマンディ側で比較することができる可能性もある。 また、2021年に入り、20世紀末から進められていたヘンリ2世の証書集がようやく刊行されたとの情報を得て、早速科学研究費で購入することができ、その調査を少しずつ始めている。また、残部も今年中に刊行予定と聞いており、12世紀イングランド・フランスの研究が新たに展開すると考えられる。これまで断片的にしか利用することができなかったヘンリ2世の証書類を、ある程度網羅的に調査することにより、当時の支配層による、イングランドと大陸にまたがった活動をさらに具体的に明らかにすることができると期待でき、本研究の進展にも非常に有益と考えている。
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次年度使用額が生じた理由 |
予定していた海外調査や、研究会・学会出張ができなかったため、旅費は使用せず、文献資料の収集にあてた。とくに、刊行されたばかりの大部の重要資料を購入することで有効に利用はできた。しかし、差額として上記の金額分は今年度使用できなかったので、次年度使用することにした。すなわち、次年度使用額177,302円と令和3年度交付額700,000円計877,302円は、年度末に海外調査を計画しているため、それに400,000円をあて、残金を文献収集費として使用する予定である。
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備考 |
金澤周作監修『論点・西洋史学』「ノルマン征服」ミネルヴァ書房、2020年。研究成果は2021年刊行予定の「スティーヴン王治世の内乱期におけるチェスター伯レナルフ2世とウェールズ境界地方」高田京比子他編著『中・近世ヨーロッパ史のフロンティア』昭和堂と、「チェスター伯ヒューとその封臣たち-ロバート・オヴ・リズランを中心に」『人間文化研究所紀要 人間文化』36号で公表する。
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