研究課題/領域番号 |
20K01050
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研究機関 | 別府大学 |
研究代表者 |
飯坂 晃治 別府大学, 文学部, 教授 (30455604)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 古代ローマ / イタリア / 都市 / 官僚制 / 救貧制度 / ラテン碑文 |
研究実績の概要 |
2021年度は,古代ローマの公的アリメンタ制度(子弟養育制度)について,皇帝政府によるイタリアの統治行政という観点から研究をおこなった。ローマ帝政前期のイタリアには街道網が張りめぐらされ,街道監督官(curator viarum)が街道の維持管理にあたっていた。しかし街道監督官は,そうした本来の任務に加え,様々な行政活動にも従事していた。したがってイタリアでは,街道を基軸として統治行政がおこなわれていた。 街道監督官の副次的な活動のなかでも最も重要だったのは,アリメンタ制度の管理であった。アリメンタ制度の運用が街道監督官によって管理された理由として,(少なくとも2世紀前半までは)イタリアで地方行政に関わる帝国官僚が街道監督官のみであったことが挙げられる。街道監督官は,その任務を遂行する際に,土地(公有地および私有地)に関わる業務が多かったと思われるが,アリメンタ制度が土地を担保とした貸付により運営されていたことに鑑みれば,同制度の監督者として適任であっただろう。この点にも街道監督官がアリメンタ制度の管理にあたった理由をみることができる。アリメンタ制度は,ローマ皇帝の出資により子供たちに手当を支給するものであったが,この事業をつうじて皇帝は寛大で慈悲深い市民の「父」という自己アピールをおこなった。近年では,このようなアリメンタ制度のイデオロギー的側面を強調する研究が主流となっているが,皇帝によるこのようなイメージの発信は,街道を基軸とした統治システムを前提としたものであったといえよう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2021年度は,皇帝政府によるイタリアの統治行政という観点からアリメンタ制度を研究するとともに,公的アリメンタ制度の目的に関する考察もすすめた。近年では,ローマ皇帝がアリメンタ制度で自身の「寛大さ」を誇示したのだという点を指摘し,同制度のイデオロギー的側面を強調する研究が主流となっている。これに対し本研究は,公的アリメンタ制度が,それまでイタリア都市の維持・再生産を担っていたエリートの流出という都市社会の変容を背景に,サブエリートに都市社会への貢献を促す目的で実施されたのではないか,という仮説を立て,同制度の分析をおこなっている。 公的アリメンタ制度に関する主要な史料である北イタリアのウェレイアと南イタリアのリグレス・バエビアニのアリメンタ碑文には,アリメンタ基金から貸付をうけた土地所有者の名前と土地評価額がリストアップされているが,その土地所有者たちを氏名構成法の観点から分析すると,ウェレイアおよびリグレス・バエビアニの両都市においてアリメンタ制度に参加した土地所有者はその都市出身の者よりも他地域の出身者が多いこと,そしてアリメンタ制度に出資した額を比較すると,前者が後者よりも積極的に同制度に参加していることが確認できる。ここからは,都市社会の存続を担ってきた都市エリートの流出と,彼らにかわって都市社会に寄与しようとするサブエリートの存在とがみてとれるようにも思われるが,このことを立証するにはさらなる分析が必要である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度は,公的アリメンタ制度に関する主要な史料であるウェレイア碑文とリグレス・バエビアニ碑文について,おもに先行研究に依拠しながら分析し,上に述べたようなデータを得ることができたが,史料そのものの本格的な分析は今後の課題として残されている。ともあれ,アリメンタ制度の目的を考えるためには,多額の出資をおこなった基金創設者だけでなく,その基金から貸与を受けて利子を支払った参加者に注目することが必要であろう。 また近年では,アリメンタ制度に関して,都市法などを参照しながら制度運用の実態に迫る重要な研究がいくつか発表されている。このようなアリメンタ制度の法制史的な研究は,公的アリメンタのみならず私的アリメンタをも分析の対象としている。公的アリメンタ制度の目的を考えるためには私的アリメンタ制度との比較も必要になってくるが,そのためにも近年の法制史的研究の成果をふまえつつ,私的アリメンタ制度の研究も進めなければならないだろう。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度は,新型コロナウイルス感染症の拡大により,予定していたイタリアにおける現地調査が実施できなかった。次年度は,海外現地調査を実施する計画である。
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