研究課題/領域番号 |
20K01054
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
橋場 弦 東京大学, 大学院人文社会系研究科(文学部), 教授 (10212135)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 民主政 / 技法 / デモクラシー / アテナイ / 民主主義 |
研究実績の概要 |
研究初年度においては、まず「民主政の技法」の具体的諸相を、考古学的遺物の調査や文献・碑文史料の分析をもとにまず明らかにすることに力点を置き、民会出席者や裁判員への日当制度、テスモテタイ(司法担当官)による裁判日程割り当て、投票方式などの制度や行動様式から、抽選器(kleroterion)・徽章(pinakion)・投票具(psephos)・碑文・公文書館といった物的な装置について、古典史料と碑文史料の双方から実証的に明らかにした。とくに、アメリカの研究者J. Kroll, Athenian Bronze Allotment Plates, Cambridge, Mass. 1972がつとに明らかにした、裁判員や役人の抽選に用いた身分証Pinakionの研究は、こうした物的な道具立てが、人口の多いアテナイにおいて、大勢の市民を一度に効率よく動かすためには不可欠の道具であることを明らかにしており、その観点から、pinakionの用例が他国でなかったかどうか調査した。その結果、前330年代と思われる小アジアのポリス・イアソスの民会決議碑文(Rhodes&Osborne 99)からは、pessosと呼ばれる一種の記章が民会手当の配布に際して用いられ、同時に民会の出席者数の確認など情報把握にも利用されていたことが明らかになった。今後、こうした「民主政の技法」が、アテナイ民主政起源のものであるかどうか、もしそうだとしたらどのように伝播したのか、などのあらたな問題領域が浮かび上がる。アテナイ型の名札pinakionは、タソス島などからも発見されており、それらのポリスが民主政を採用していたか、そうであれば、その民主政はアテナイ型もののだったかどうか、が今後の研究の焦点となるだろう。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルス感染拡大の影響で、当初予定していた海外出張による文献調査、現地調査は不可能となったので、その方面での調査は見込めなくなったが、その反面、国内での史料収集や文献調査は順調に進み、全体的に見ればおおむね順調に進展していると評価できる。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、「民主政の技法」がどのような条件下で発展したのか、その背景にある政治的文脈を探究することにも力点を置く。おおむね当初の研究計画通り推進してよいものと思われる。ただし、新型コロナウィルスの世界的規模での感染拡大の影響で、次年度もまたおそらく海外出張による文献調査、現地調査は見込めず、その点では課題を残すことになる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年1月より各地で感染拡大がはじまった新型コロナウイルス(Covid-19)はたちまちのうちに全世界に拡がり、WHOがパンデミック宣言を出すに及んで、全世界的に不要不急の往来が停止され、現在に及んでいる。そのため当該年度に予定していた連合王国およびギリシャ共和国への海外出張による遺跡調査・文献調査は不可能になり、それのために支出を予定していた海外出張旅費が使えなくなったため、次年度使用額が生じたのである。
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