研究課題/領域番号 |
20K01058
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
中野 耕太郎 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00264789)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アメリカ史 / アメリカ研究 / 現代史 / 西洋史 |
研究実績の概要 |
本研究は、1960-70年代のアメリカではじまった福祉国家の衰退と「小さな政府」論の台頭に注目し、この間進行した国家・市民関係の変化を実証的に分析するものである。具体的には、①冷戦と国内救貧の関係を70年代の展開を視野に入れて考察するとともに、この時期あらわとなる、②アメリカ国内の治安・拘禁政策の史的転換と、③徴兵停止(募兵の市場化)にともなう市民の軍事奉仕の変容を検証し、ポスト福祉国家へと向かうアメリカ史のダイナミズムを明らかにする。研究初年の令和2 年度は、①の領域を対象とし、アメリカ国内の救貧・コミュニティ再生政策と同時期に第三世界で展開された平和部隊等の支援活動との関係を広く検討した。ただ、本年度はコロナ・ウィルス感染症の影響で、計画していた米国国立公文書館とリンドン・ジョンソン大統領図書館での文書調査が実施できず、関連書籍の収集とS・シュライバー平和研究所等のデータベースに依存して研究を進めざるをえなかった。なお、本年度夏、アメリカの地方警察による黒人市民への暴力事件が生じたことから、現代アメリカの都市政策や大量収監社会化に関して現状分析を発信する機会があった。この問題は、本研究が取り組む1970年代以降の貧困や治安政策の転換と密接にかかわるものであり、研究成果の一部は、「コメント:歴史のなかの分断・分極化―2020年のアメリカを考える」(特集:分断のアメリカを展望する)『アメリカ太平洋研究』Vol. 21 (2021年3月)として刊行された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初計画では、研究1年目の令和2年度には、米国国立公文書館所蔵の平和部隊文書およびL.ジョンソン大統領図書館所蔵のSergent Shriver(平和部隊の創設者)の関連資料を 中心に検討を進める計画であった。しかし、新型コロナ・ウィルス感染症の流行のため、アメリカに渡航し、現地で史料調査を行うことができなかった。このため、一次史料の収集・分析には遅れが生じている。
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今後の研究の推進方策 |
研究2年目の令和3年度においては、第一に今年度行えなかった、米国国立公文書館およびL.ジョンソン大統領図書館(あるいはJ. F. ケネディ大統領図書館)での史料調査を実施したい。また、当初からの計画に従い、1970年代に拡大する新しい市民監視・拘禁政策についての研究を計画している。具体的には、R. ニクソン大統領図書館が所蔵する、ニクソン政権期の治安政策ファイルを閲覧するとともに、シカゴ等自治体レベルでの市民監視・拘禁行政の展開を検討する。 こうした研究をふまえて、最終年の令和4年度には、同時期に進む志願兵化の過程とその影響を詳細に調査する。D. アイゼンハワー大統領図書館が収蔵するニクソン政権の志願兵化委員会記録を検証するとともに、ハーバード大学所蔵の全米女性機構文書を調査し、女性と軍務の関係についても幅広く再検討する。最後に、救貧、治安、軍務の各領域で得られた研究成果を総合し、1960-70年代における国家・市民関係の史的転換の意義を報告書にまとめる計画である。 なお、令和3年度以降も新型コロナ感染症の流行が沈静化せず、海外渡航ができない状況が続く場合は、対面あるいはZoomを用いた70 年代論研究会を立ち上げるなどして、研究者間の情報交換を活発化し、現地調査の不足を補うことを検討している。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナ・ウィルス感染症の流行により、本年度計画していたアメリカ現地での史料調査を行うことができず、助成金のうち主に旅費として支出する予定であった分を次年度送りとせざるをえなかった。あらためて、令和3年度にアメリカへの渡航が可能になった段階で、これを使用して現地での調査を実施する計画である。
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