研究実績の概要 |
本研究は、①冷戦と国内救貧政策の関係性、②国家による治安・拘禁政策の形成、③市民による軍事奉仕の変容というの3領域を軸に1960年代~70年代におけるアメリカ史の一大転換を検討するものである。 研究最終年度となる令和5年度は、夏期に約2週間アメリカ現地での一次史料調査を行い大きな成果を得た。John F. Kennedy大統領図書館では平和部隊関連の基本史料を収集し、この海外ボランティアの国内福祉への展開を考える手掛かりを得た。また、シカゴ大学では、社会学者Morris Janowitzの個人文書を閲覧し、全志願兵軍隊(All-Volunteer Force)の形成をめぐる同時代の諸議論を調査した。加えて、ノースウェスタン大学では同じく米軍の志願兵化に関する政府報告書(Studies Prepared for the President's Commission on An All-Volunteer Armed Force, 1970等)を中心に研究を進めた。 4年間に及ぶ調査・研究をとおして、特にこの時期の海外援助と国内の貧困対策に相互依存的な関係があることがますます明らかになった。このことから、両事業に同時に携わった人物や組織の実態解明という次段階の研究の必要が痛感された。また、「大統領全志願兵軍委員会」の調査から、徴兵停止の政治メカニズムがある程度解明され、新興の新自由主義の影響の大きさが改めて確認できた。 さらに、こうした連邦政府の対貧困政策と新自由主義的な募兵の市場化が、同時代に進行する治安政策(拘禁国家化)としばしば、対象とする都市住民を共有したことも論点として浮かび上がってきた。本研究は上記3領域の検証から国家・市民関係の歴史的変容を立体的に考察するものであったが、この問題を手掛かりに、この3領域間の相互的な連関の解明という新たな課題を得ることができた。
|