研究機関最終年度となる2023年度は、各地におけるローカルなペルシア戦争の記憶の受容と継承のあり方についての個別検討を進めるとともに、アテナイで展開されたペルシア戦争の叙述と言論が、アテナイ社会において長い時間をかけて共有ないし拡散されていく過程についての検討も進めた。全体として、これまで史資料を収集し、考察をふかめてきた個別事項について、積極的に口頭報告をおこないフィードバックを得ることに注力し、今後、論文として公開する準備を進めてきた。 8月には戦争記念モニュメント、トロパイオンに焦点を当て、その起源とペルシア戦争後の新たなる展開について報告をおこなった。また、9月には現地調査をおこなう過程で、プラタイアにおけるエレウテリア(自由)の祭祀とエレウテリア祭の成立についての非公式の報告をおこなった。12月にはペルシア戦争の受容をめぐる国際ワークショップ(京都)において、アテナイのエフェベイア制度がペルシア戦争の記憶の共有と継承に果たした役割について、とくにヘレニズム時代に焦点を当てて考察した報告をおこなった。さらに、3月には、第5回日欧コロキアム(アテネ)において、いわゆる「テミストクレスの決議」を取り上げ、トロイゼンの視点から、この決議が前3世紀に碑文として刻まれ建立された背景について報告をおこなった。 ペルシア戦争の記憶の継承をめぐる通時的な研究については、個別研究だけではなく、共同研究としても2024年5月に開催される日本西洋史学会大会古代史部会における小シンポジウムとして企画をおこない、準備をすすめているところである。 いずれの口頭報告についても、すでに発表媒体の決定しているもの、未定のものを問わず、今後、しかるべき研究成果として公開していく予定である。
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