研究課題/領域番号 |
20K01061
|
研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
畠山 禎 北里大学, 一般教育部, 教授 (60400438)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | ロシア帝国 / 第一次世界大戦 / ジェンダー / 家族 / 教育 / 職業教育 |
研究実績の概要 |
2020年度は、ロシア帝国政府およびロシア二月革命後に成立した臨時政府の家族・教育政策を概観し、そのうえで女子職業教育政策の動向を把握すること、女子職業教育政策をめぐる議論から性差や性別役割分業に関する政府の意識を読み取ることを課題とした。 第一次世界大戦期における帝国政府・臨時政府の女子職業教育政策は、銃後における軍需品生産などへの学校施設の利用や生徒の動員、新たな女子職業教育機関規程の草案作成、雑誌『職業教育』の刊行事業などに大別される。それらにおいて示されたジェンダー規範は、総じて、女性を生産や社会奉仕に動員する必要性から家内領域だけでなく公的領域における女性の役割を高く評価し、社会や家族における女性の地位の相対的向上を支持するものだった。ただし、ジェンダー規範の内容については未解明の部分が大きい。女子職業教育事業をめぐる政府と全ロシア・ゼムストヴォ(地方自治会)連合、全ロシア都市連合などの自治体組織との関係性、政府とロシア技術協会などの民間団体との関係性も、検討課題として残された。 19世紀末から第一次世界大戦前までの家族・教育については、ジェンダー史・女性史の概説書でロシア女子職業教育の変遷や研究動向を解説し、パネルセッション「中央ユーラシアの家族とジェンダー:規範・言説・ネットワーク」ではロシア中央部におけるロシア人との比較から、ヴォルガ中流域や中央アジアにおけるムスリムの家族やジェンダーについてコメントした。ロシアの帝国的編成と政治思想史を論じた最新研究について書評を発表した。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初の計画では、2020年度はサンクトペテルブルクのロシア国立歴史古文書館にて女性熟練工の養成や学校での軍需品生産をめぐる政府の審議、女子職業教育機関規程案の作成過程を検証し、国民教育省機関誌『職業教育』の未刊行記事を調査し、ロシア国民図書館では女子職業教育関係の同時代刊行物、雑誌論文を閲覧する予定だった。しかし、新型コロナ感染症拡大のため、国内外の研究機関での文献調査を次年度以降に延期した。所属先での教育活動も、オンライン授業の準備や学生指導などにより例年よりも負担が大きかった。 そのような制約のなか、第一次世界大戦期に関する先行研究や収集済みの同時代刊行物の分析を進め、家族・教育領域で主張されたジェンダー規範をある程度解明することができた。19世紀末から第一次世界大戦前までについても、家族・教育の特徴やその変遷を整理し、概説書の分担執筆や書評、パネルディスカッションへのコメントとして成果を発表することができた。以上の理由から、2020年度までの進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題は、19世紀末から第一次世界大戦までのロシア女子職業教育を対象に、家族・教育領域におけるジェンダー規範の変遷を追跡することを目的としている。研究方法としては、ロシアやウクライナの図書館や古文書館でロシア帝国政府やロシア二月革命後の臨時政府の女子職業教育政策、民間団体の女子職業教育運動に関する史料を調査し、教育事業の構想・実践において語られた言説からジェンダー規範を析出する。 しかし、2020年度の研究活動は新型コロナ感染症拡大の影響から先行研究や収集済みの同時代刊行物の分析に限定され、多くの課題が残されてしまった。2021年度においても、国内外の研究機関の利用が困難な状況にある。したがって、さしあたり2020年度および2021年度の研究課題を対象に、先行研究や収集済みの同時代刊行物の分析を進めていく。これで基礎を固めたうえで、2022年度以降、国内外の研究機関での文献調査を実施したい。海外の調査先としては、フィンランド国立図書館(ヘルシンキ大学付属図書館)(フィンランド・ヘルシンキ)、ロシア国立歴史古文書館、ロシア国民図書館(ロシア・サンクトペテルブルク)を予定している。 なお、研究課題の実施と成果の公開が当初計画よりも遅れる場合は、研究期間の延長を検討する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、2020年度はサンクトペテルブルクでの文献調査のための外国旅費、国内研究機関での文献調査や研究成果発表のための旅費、調査で使用するノートパソコン、コンパクトカメラの購入費、近現代ロシア社会史・ジェンダー史関係図書(洋書・和書)の整備費用などを予定していた。しかし、新型コロナ感染拡大のため国内外への出張を延期し、研究費を図書の整備にのみ使用したことから残額が生じた。残額は2021年度以降、文献調査や研究成果発表のための旅費、文献調査で使用するノートパソコンやコンパクトカメラの購入に充てる。
|