研究課題/領域番号 |
20K01061
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研究機関 | 北里大学 |
研究代表者 |
畠山 禎 北里大学, 一般教育部, 教授 (60400438)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ロシア帝国 / 「大改革」 / 「女性問題」 / 女性史 / ジェンダー史 / 職業教育 / 農業教育 / 家政教育 |
研究実績の概要 |
2022年度は女子農業教育・家政教育団体の教育事業とジェンダーを研究課題とした。19世紀中葉、ロシア帝国は農奴解放など一連の近代化政策を断行した。改革の風潮のもとで「女性問題」が議論され、その中では女子教育が主要なテーマとなった。その後、女子中等普通教育や女子高等教育、女子職業教育が拡張していく。本研究課題では、この女子職業教育の一領域である農業教育・家政教育について、個人や団体が教育事業をどのように構想したのか、とくに事業の担い手がロシア帝国の現状をどのように認識し、どのような目的で女性を教育しようとしたのか、教育事業がどのような成果を得たのかを調査した。 女子農業教育・家政教育の担い手は、ロシアの国家・社会・家族を発展させるべく女子教育を構想したが、その際に明確な性別役割分業を前提にしていた。たとえば、ペトロフスキー農業アカデミー教授ステーブトは、農奴解放後の不在地主の増加や都市への女性の移住がロシア農業不振の一因だと考えた。ステーブトは女子農業学校を設立し、正しい知識を持ち男性農場主の補助者になることができる妻を、また教養があり農業に愛着を持ったロシア知識人を育てることのできる母親を育成しようとした。この学校構想が支持を得たのは、ロシア農業の発展に貢献することが期待されたからだけでなく、性別役割分業規範にもとづいて妻や母親としての役割を女性に定めていたからである。構想は、農奴制下でしばしば男性が国家に勤務し、女性が所領経営を担当していたように、男性不在時に女性が農場経営者となることも想定していた。 今年度は、本研究課題と関連するテーマで学会発表(1件)を行い、研究動向論文(1件)を寄稿した(2023年度の刊行予定)。このほか、2021、2022年度研究課題の成果の一部として共著書(1件)が2023年度中に刊行される予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
理由 当初計画では、2022年度にウクライナ共和国キーウの国立キーウ州古文書館で2~3週間程度、文献調査を実施し、女子農業教育・家政教育活動家の著作を読み解いてその思想を明らかにし、女子農業教育・家政教育団体の教育事業を特徴づけることになっていた。しかし、新型コロナ感染症拡大やロシアによるウクライナ侵攻のため調査が実施できなかったため、科研費での研究開始前にロシアやフィンランドで収集した史料や本科研費で購入した近現代ロシア社会史・ジェンダー史関係図書(洋書・和書)に依拠して、研究を実施した。 研究の結果、19世紀後半における女子農業教育・家政教育団体について、教育事業の特徴や動向を把握し、帝政末ロシアで教育領域において主張されたジェンダー規範をある程度浮かび上がらせることができた。しかし、農奴解放(1861年)より前の時代を視野に入れて教育事業の変遷を追跡していないなど、課題が残された。 2022年度は、本研究課題と関連するテーマで学会発表「ロシア正教徒農村住民の結婚・家族と相続――ロシア帝国の結婚・家族の比較史へ向けて」第18回近代中央ユーラシア比較法制度史研究会(2022年7月2日)を行い、研究動向論文「ソ連邦解体後30年の到達点――ロシア帝国・ソ連ジェンダー史の研究動向」『ジェンダー史研究』を寄稿した(2023年度中に刊行予定)。このほか、2021、2022年度研究課題の成果の一部として共著書(担当部分「家庭だけでなく職業も――帝政末ロシアにおける女子中等教育機関卒業生の進路と社会」(北村陽子編著『職業教育とジェンダーの比較社会史』昭和堂、所収))が2023年度中に刊行される予定である。 以上の理由から、2022年度までの進捗状況を「やや遅れている」と評価した。
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今後の研究の推進方策 |
本研究は当初、ロシアやウクライナの図書館や古文書館でロシア帝国政府やロシア二月革命後の臨時政府による女子職業教育政策、民間団体の女子職業教育運動に関する史料を調査し、教育事業の構想・実践において語られた言説からジェンダー規範を析出する予定だった。 しかし、新型コロナ感染拡大の影響やロシアによるウクライナ侵攻により、国外の研究機関(ロシア国立歴史古文書館、ロシア国民図書館など)での文献調査が実施できない状態にある。第一次世界大戦期については先行研究が少なく、ロシアやウクライナの図書館や古文書館での文献調査が不可欠なため、本来、本研究が検討対象とすべき時代よりも前の時代(19世紀~20世紀初頭)を中心に研究を実施することにした。おもに依拠するのは、科研費での研究開始前にロシアやフィンランドで収集した史料や本科研費で購入した近現代ロシア社会史・ジェンダー史関係図書(洋書・和書)である。 当初計画では2022年度は、ウクライナ共和国キーウの国立キエフ州古文書館で2~3週間程度、文献調査を実施し、女子農業教育・家政教育活動家の著作を読み解いてその思想を明らかにし、女子農業教育・家政教育団体の教育事業を特徴づけることになっていた。このテーマについては、収集済みの史料にもとづき、19世紀後半における教育事業の動向について概要を把握できたが、調査が不十分なため2023年度も研究を継続する。その際、19世紀前半を検討対象期間に含めることで理解を深めてみたい。可能であれば、フィンランド共和国ヘルシンキ(フィンランド国立図書館)で文献調査を実施する。 なお、当初計画で予定されている2023年度課題(ユダヤ人団体の女子職業教育事業)については、研究期間を延長し2024年度に実施する。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初計画では、2020~2022年度の研究費を外国旅費(ロシア連邦サンクトペテルブルクやウクライナ共和国キーウのアーカイヴや国立図書館での文献調査)、国内旅費(国内研究機関での文献調査や研究成果発表)、ノートパソコンとコンパクトカメラの購入費、近現代ロシア社会史・ジェンダー史関係図書(洋書・和書)の整備費などとして使用する予定だった。しかし、新型コロナ感染拡大とロシアによるウクライナ侵攻のため国外出張が延期となった。フィンランド共和国ヘルシンキ(フィンランド国立図書館での文献調査)も検討したが、結局、見送ったため残額が生じた。 2023年度もロシアやウクライナで文献調査を実施できない可能性が高く、侵攻の影響次第ではあるが、フィンランドでの調査を計画してみたい。その他、研究費を近現代ロシア社会史・ジェンダー史関係図書(洋書・和書)の整備や国内出張に充てる予定である。
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