本研究の最終年度にあたる今年度は、これまで行ってきた研究発表に対するコメントを踏まえ、研究の集大成となる成果物を査読付き論文にまとめることができた。具体的には、スペインのバルセロナ大学が発行する学術雑誌Boletin Americanistaの第88号に、Libros de bautismos y padrones en las misiones jesuiticas del Paraguay (1754-1764): propuesta para un analisis comparativoと題するスペイン語論文の掲載が決定した(刊行は2024年中)。この論文では、スペイン領南米ラプラタ地域でイエズス会士が建設した布教区(先住民改宗施設)のうち、現パラグアイ南東部サンタ・ロサに関わる1754-64年作成の洗礼簿の記載事項を、同時期ならびに以降に作成された住民名簿と照らし合わせて浮かび上がってきた新事実を提示した。重要な成果は次の2点である。(1)この11年間に先住民グアラニの新生児を対象に1854件の洗礼が行われたが、その際に代父となったグアラニが属したカシカスゴ(首長の政治権力ならびにこれが及ぶ範囲・領域)を現存する住民名簿から経年的に辿っていくと、そうしたカシカスゴがサンタ・ロサにおいて歴史的に由緒あるものだったことが明らかになった。すなわち代父はその役目に相応しい出自を背景とするグアラニが属するカシカスゴから輩出されていたのである。(2)個々の洗礼記録には新生児の母親が属するカシカスゴの名称が記載されたが、この赤子の成長を住民名簿から辿っていくと、赤子は成人して所帯を持った後も母親が属したカシカスゴに所属し続けていたことが明らかになった。これは紛れもなく新生児の属性が母親に紐付けられていたという事実の反映である。
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