研究課題/領域番号 |
20K01083
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研究機関 | (財)古代オリエント博物館 |
研究代表者 |
下釜 和也 (財)古代オリエント博物館, 研究部, 研究員 (70580116)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 前期青銅器時代 / アナトリア / シリア / 土器 / 二次的都市形成 |
研究実績の概要 |
本研究はメソポタミアをはじめとする西アジア各地域において、都市文明の形成と発展、衰退という社会文化的な現象に土器などの物質文化の変容がどう関わっていたか、その相関性を究明することを目的とする。そのために、国内の研究機関に所蔵されている西アジア出土遺物および海外調査で得られた考古資料、特に土器資料の分析を主たる対象としている。令和2年度は新型コロナウイルス感染症拡大に伴い予定の変更を余儀なくされつつも、下記の研究計画を実施した。 (1)土器資料の分析:初年度は、本研究の開始までに観察と分析作業を終えていたトルコ(キュルテペ遺跡)、シリア(テル・アリー・アル=ハッジ遺跡)の土器資料データについて詳細な解析と考古学的な検討を行い、前3千年紀に起こった二次的都市化に関わる物質文化の所見を得ることができた。その結果、アナトリアでは都市形成期において轆轤技術の導入が加わり、土器群の組成と製作技術構造に変化がみてとれた。しかし、在地の伝統的技術による物質文化の再生産もかなりの程度継続していた点も明らかで、シリア・メソポタミアにおける都市形成とは明瞭な差異が見いだされたことは今後の研究にとって重要な示唆を与えるものである。 (2)対象遺跡出土試料の年代測定:現地調査で新しくサンプリングした試料の年代測定を行う予定であったが、現地への渡航と試料採取が実現せず今年度は断念せざるを得なかった。アナトリアの関連遺跡の放射性炭素年代は有効なデータが著しく不足しているため、本研究で今後実施する予定である。 (3)研究発表:(1)の分析をもとにして、その予備的成果を論文にて報告するとともに関連学会にて口頭発表を行った。また、前期青銅器時代の都市化に関わる地域間交流に関して国内資料を基にした論文を発表するとともに、所属機関での一般向け広報誌にてその成果の一端を紹介した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
流動的な現地の治安情勢を予め想定し、本研究では国内所蔵資料と現地調査の二本立てで進めているが、初年度は予期せぬ新型コロナウイルス感染症拡大による影響で、海外調査はおろか国内資料へのアクセスも大幅に制限された。そのため、研究資料の調査・収集の点で研究活動が阻害され、当初の計画よりやや遅れが生じている。 そこで今年度は、研究開始時までに収集していたデータの分析作業などに集中し、特にトルコ関連資料の分析は順調な進展をみた。また、その予備成果を学会発表や論文として発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
本研究の根幹に関わる資料調査が遅れていることから、今後は情勢を注視しつつ、可能な限り国内研究機関の所蔵資料の分析研究とこれまでに得られたデータの研究発表に注力したい。それと同時に、今年度得られた成果を検証するべく、国内外の先行研究との比較検討によって本研究の暫定モデルの構築を始める(既出文献によるデータ検証)。トルコおよびイラクの対象資料については渡航可能となり次第現地調査に赴き、資料の収集と分析を急ピッチで進める計画である。
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次年度使用額が生じた理由 |
今年度に当初計画していたトルコと北イラクでの海外調査、および放射性炭素年代の測定(外部委託)が実施できなかったため、これらに関わる旅費と測定経費等の支出がかなわなかった。令和3(2021)年度に状況が整えば、次年度使用額と合わせて、遅れている調査をただちに再開する予定である。
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