研究課題/領域番号 |
20K01099
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研究機関 | 福岡大学 |
研究代表者 |
桃崎 祐輔 福岡大学, 人文学部, 教授 (60323218)
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研究分担者 |
栗崎 敏 福岡大学, 理学部, 准教授 (20268973)
石黒 ひさ子 明治大学, 研究・知財戦略機構(駿河台), 研究推進員 (30445861)
脇田 久伸 佐賀大学, シンクロトロン光応用研究センター, 特命研究員 (50078581)
小嶋 篤 福岡県立アジア文化交流センター, その他部局等, 研究員(移行) (60564317)
沼子 千弥 千葉大学, 大学院理学研究院, 准教授 (80284280)
市川 慎太郎 福岡大学, 理学部, 助教 (90593195)
古澤 義久 福岡大学, 人文学部, 准教授 (40880711)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 沈船遺物 / 棒状鉄製品 / 流通鉄素材 / 日本刀素材 / 日宋貿易 / ヤコウガイ交易 / 宝満山大山船 / 刀鍛冶 |
研究実績の概要 |
列島各地の中近世遺跡で出土する規格化された棒状鉄製品は、素材としての流通が想定されていた。ところが近年、宋元代沈船から、日本出土品と同一形態・法量の棒状鉄製品が大量に発見され、交易品としてアジアに広く流通していた可能性が高まった。 宋代の石炭エネルギー革命で大量生産された鉄が、アジア規模で流通する棒状鉄製品のかたちで供給された事実は、日本の中近世の流通鉄素材は専ら「たたら製鉄」により生産された「玉鋼」とする定説の修正、さらに「日本刀」素材の再考を促す。 また鉄鍋が破砕・再加工され大鎧小札の素材とされている可能性も指摘されていたが、宋元沈船からは大量の鉄鍋も発見されている。2020年度は中国での調査を断念した。そこで中国からの輸入鉄素材と推定される遺物が出土している沖縄県の八重山地域の資料について沖縄県埋蔵文化財センター保管資料と現地調査を実施した。波照間島大泊浜貝塚・下田原貝塚,西表島上村遺跡では、ヤコウガイ交易の対価として九州の石鍋や中国の鉄素材・陶磁器が、石垣島仲筋貝塚でも13~14世紀の中国陶磁器・鉄素材が出土し、琉球王府の支配以前に按司層が鉄の交易で成長していることを確認した。 分担者の古澤は、中国南海の沈船に積載された貨幣を分析し、日本の中世遺跡から大量に出土する明の永楽通宝は、勘合貿易ではなく鄭和大艦隊の遠征時に大量鋳造され、東南アジアに下賜されたものが南蛮貿易で日本列島に還流したとする新説を提唱して注目された。沼子は、沈船引揚鉄製品の海洋生物による変質メカニズム解明のための調査準備にあたった。栗崎・市川・脇田は、ファンダメンタル・パラメーター (FP)法で、油山山麓周辺の河川砂から採集した砂鉄中の成分を定量し、日本各地の砂鉄試料と比較した。その結果、Ti, VおよびMnによる散布図を作成すると、油山山麓とそれ以外の地域の砂鉄を明確に区別できた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2020年度は本来、中国の南海1号・華礁光1号などの沈船資料の調査を実施し、また中国水下考古学中心等の研究者と情報交換や議論を行う予定であった。 また資料分析について内諾を受けていた長崎県鷹島でも調査実施の予定であった。 しかしコロナ禍による移動制限のため、中国で予定していた沈船積載の鉄素材調査のみならず、鷹島での検討会も断念せざるを得なかった。このため出張旅費や分析にかかる人件費の謝金等は執行の目途が立たず、2021年に繰り越すことを余儀なくされた。 そこで緊急事態宣言の合間を縫って八重山地域の中世遺跡の踏査と出土品調査を実施した。沖縄県埋蔵文化財センターでは鉄製品の保存処理過程で剥離した銹や小破片について、自然科学的分析の内諾を得た。また桃崎が日本国内、石黒が中国や東南アジアでの中世鉄生産や交易にかかる遺跡や遺物の研究情報を収集した結果、福建省で13~14世紀の大規模鉄生産遺跡が発見され、東南アジア発見の沈船からも鉄素材の積載が確認されたこと、日本の中世鉄流通の画期や鉄関連遺跡の停廃と連動し、大量輸入された中国鉄が廻船鋳物師によって全国流通し、出雲以外の非効率な国内鉄産業を壊滅させた状況が窺えた。また鉄対価のヤコウガイが螺杯に加工され宋元代都市遺跡から出土する事も突き止めた。 鉄製遺物や鉄製品などを正確に分析するために、栗崎・脇田・市川は、定量方法には、化学組成、元素の物理定数および測定条件に基づき、蛍光X線強度を理論的に計算できることを利用し、未知試料の蛍光X線強度からその化学組成を算出するファンダメンタル・パラメーター (FP)法を選択した。ただ2020年度中に計画した分析資料の手配などがコロナ禍での緊急事態宣言に伴う行動規制や事務の煩瑣化で停滞しており、特に自然科学的分析のための作業が遅れている。
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今後の研究の推進方策 |
2021年3月10日にオンライン会議で、2021年1月18日(火)~3月13日(日)まで九州国立博物館・福岡大学主催で、文化交流展第7室で、科学研究成果展「アジアを変えた鉄」を実施すること、期間中の3月5日に国際シンポジウムを実施し、分担者・招待者で本科研の成果を発表し、論考と関連資料を収録した資料集を刊行する事を決定した。 本展示では、日宋・日元貿易の舞台となった九州出土の棒状鉄製品(福岡県朝倉市才田遺跡、大分県原遺跡等)、中国王朝の冊封体制加入以前の琉球列島で出土した棒状鉄製品(沖縄県石垣市波照間島大泊浜貝塚,西表島上村遺跡)を紹介する。加えて、棒状鉄製品が出土した遺跡の性格を、陶磁器(中国陶磁)・土器(在地土器,徳之島産カムイ焼)・石器(石斧,石鍋)・食糧残滓等(ヤコウガイ,タカラガイ,シレナシジミ)等の出土品から明らかにし、鉄素材の広域流通がもたらした社会変動についても紹介する。 なお2021年4月1日付で分担者・展示担当の小嶋が九州国立博物館から九州歴史資料館太宰府蔵司調査に異動となったため、新たに九州国立博物館に着任し、本展示を引き継ぐ岡寺良を新たに分担者に加えて対応する。岡寺は中世山岳寺院の専門家であり、太宰府宝満山(有智山)大山寺船による中国交易と鉄輸入、宝満山附属とみられる中国人刀匠「文壽」や「金剛兵衛」に取り組む予定である。宝満山周辺で発掘された鉄関連遺物については、現在太宰府市教育委員会と資料の抽出と分析にかかる協議に着手している。 また別府大学の上野淳也も本研究の関連分野に通暁しており、新たに分担者に加える。 福岡大学理学部グループでは、これまでの出雲や福岡周辺の砂鉄サンプルの調査データを基礎に、福岡県下の製鉄遺跡や鉱山から得られた鉄滓・鉄鉱石・砂鉄・鉄製品等の破壊・非破壊分析を加え、中国由来鉄と列島由来鉄の峻別のためのデータ蓄積を行なう。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度は本来、中国の南海1号・華礁光1号などの沈船資料の調査を実施し、また中国水下考古学中心等の研究者と情報交換や議論を行う予定であった。 また資料分析について内諾を受けていた長崎県鷹島でも調査実施の予定であった。 しかしコロナ禍による移動制限のため、中国で予定していた沈船積載の鉄素材調査のみならず、鷹島での検討会も断念せざるを得なかった。このため出張旅費や分析にかかる人件費の謝金等は執行の目途が立たず、2021年に繰り越すことを余儀なくされた。 そこで緊急事態宣言の合間を縫って八重山地域の中世遺跡の踏査と出土品調査を実施した。沖縄県埋蔵文化財センターでは鉄製品の保存処理過程で剥離した銹や小破片について、自然科学的分析の内諾を得た。また桃崎が日本国内、石黒が中国や東南アジアでの中世鉄生産や交易にかかる遺跡や遺物の研究情報を収集した結果、福建省で13~14世紀の大規模鉄生産遺跡が発見され、東南アジア発見の沈船からも鉄素材の積載が確認されたこと、日本の中世鉄流通の画期や鉄関連遺跡の停廃と連動し、大量輸入された中国鉄が廻船鋳物師によって全国流通し、出雲以外の非効率な国内鉄産業を壊滅させた状況が窺えた。また鉄対価のヤコウガイが螺杯に加工され宋元代都市遺跡から出土する事も突き止めた。
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