研究課題/領域番号 |
20K01111
|
研究機関 | 独立行政法人国立科学博物館 |
研究代表者 |
沓名 貴彦 独立行政法人国立科学博物館, 理工学研究部, 研究主幹 (20574148)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 非鉄金属生産 / 非破壊分析 / 生産関連遺物 / 金 / 真鍮 / 銀 / 負ミュオン |
研究実績の概要 |
本研究は、中世室町期の非鉄金属生産技術における革新的変化について、生産関連遺物や製品に着目して非破壊調査を中心に現地調査・借用による詳細調査を実施し、室町期の非鉄金属生産技術変化の解明を目的とする。 今年度は、前年度の現地調査で確認した生産関連遺物の借用調査を引き続き実施した。その結果、青森県南部町の聖寿寺館跡では金銀や真鍮生産に関する坩堝類を複数確認し、南部町教育委員会と共同で記者発表を行った。併せて今年度末刊行の発掘調査報告書に、調査結果を執筆した。さらに青森県南部地域周辺の遺跡では非鉄金属生産関連遺物を多数確認しており、様々な形で調査成果を報告し、地方文化財行政に協力した。例えば、八戸市の根城跡で確認した金・銀や真鍮生産遺物についての調査成果を八戸市博物館での企画展に執筆協力、八戸市の新井田城跡での調査成果を八戸市埋蔵文化財センター報告書に執筆、岩手県二戸市の在府小路遺跡の確認遺物について発掘調査報告書に執筆などである。この地域での調査は、今後も継続予定である。他地域では、中近世に琉球王国として栄えた沖縄では、中城城跡出土の非鉄金属製品や生産関連遺物に現地調査と共に詳細調査を行い、その成果を発掘調査報告書に報告した。また、世界遺産「平泉」の志羅山遺跡、関東の群馬県岩櫃城跡や埼玉県騎西城武家屋敷跡の成果を、論文や日本文化財科学会で学会発表した。他にも、室町期を中心に中世における重要な知見を多数得ている。 茨城県東海村の大強度陽子加速器施設J-PARCでの負ミュオン分析では、福岡県観世音寺出土の金製品について非破壊による深さ方向の元素濃度分析を行い、資料の極表面部は内部に比べて金濃度が高いことから表面処理が行われていることを確認した。このような室町期の金製品は限られるが、出土資料を中心に今後も継続予定である。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度の調査は、昨年度の現地調査で確認した資料の借用調査を中心に行った。そのため研究は順調に進展しており、所蔵先教育委員会などの報告書に調査成果を執筆する事ができている。一方昨年度は、新たな現地調査がコロナ下のため行うことは難しかった。そのため、次年度実施予定である。 J-PARCにおける非破壊調査は、これまで既存の機器では不可能な成果を継続して得ている。本手法をさらに関連資料に適用し、既存の機器ではなし得なかった新たな成果から技術革新の一端の解明を図ると共に、J-PARCの進める文理融合研究に貢献する予定である。
|
今後の研究の推進方策 |
今後も本研究の研究概要に基づき、現地調査と詳細調査を並行して実施する。 調査対象となる遺跡の時期は、室町期を中心としつつ前後の時期についても生産技術の変化を比較検討するために調査対象として、幅広く調査を実施したい。また、調査遺跡の地域についても東西南北いずれかに偏ることなく全国各地の遺跡を幅広く注視して、対象遺物の確認を継続する。 更に、J-PARCなどの大型実験施設での調査に各機関と連携を図り、新たな調査手法の開発や異分野研究への応用貢献を重視することとしたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス蔓延が継続したため、国内外の出張が制限された。参加予定の国際学会も、引き続き検討のまま一年が過ぎている。そのため、今年度は借用した資料調査を主眼としたため、借用の出張も限られた。 次年度は、コロナの状況をみつつ精力的に調査を行う予定である。
|