研究課題
当該年度はコロナ禍の影響を受けて京都大学総合博物館が長期間閉館しており、研究代表者の下林でも簡単には入館できない状況となっており、また標本整理の主導をお願いしている研究協力者(豊遙秋氏:東京在住)や研究分担者(白勢洋平氏:愛媛大)の京都来訪もままならなかったため、博物館資料の整理・データベース化については大きく計画の遅れが生じることとなった。そのため、当該年度の研究の重心を、記載鉱物学的研究を推進することや“ほぼ非破壊”分析技術を確立することに移行することとした。その結果、本研究課題の根幹である博物館収蔵の古典的鉱物標本の整理・分類については遅れが生じているが、逆に記載鉱物学的研究では多くの成果を残すことができた。具体的には、京都府和束町の古典的鉱物産地の近くで新たな鉱物産地を開拓して数々の日本新産の鉱物種を報告した。また、関西の古典的鉱物産地(和歌山県飯盛鉱山)やその周辺(三重県紀州鉱山の近傍)からも稀産鉱物を報告した。特に後者は、世界的にも報告がない化学組成を示す新種の鉱物として国際機関に承認を受けていたもので、分析データを整備して論文投稿し公表するに至った。和束の稀産鉱物についても秋の日本鉱物科学会年会で複数の発表を行い、当該年度だけでもこの産地から3種以上の日本新産の鉱物種が認定された。また、“ほぼ非破壊”分析技術の確立に関しては、人間・環境学研究科の小木曽教授の研究室からX線分析顕微鏡(堀場製作所:XGT-7000VK)を譲り受けることができ、その移転整備・調整を行った。本装置は、標本の特別な前処理なく数10ミクロンの領域を局所的に化学分析できる装置であり、試料台にセットさえできれば博物館の貴重な鉱物標本であっても非破壊で化学分析ができる優れ物である。本研究課題の遂行に非常に心強い分析装置が研究機器のラインアップに加わったことにより、今後の研究の発展が期待できる。
4: 遅れている
本研究課題では、日本における鉱物学の黎明期である明治・大正期に収集されて現在は博物館に収蔵されている鉱物・鉱石標本に再びスポットライトを照らし、最先端分析技法を駆使して国内産出鉱物種の再評価をはかることを目的としている。そのため、京都大学総合博物館に収蔵された『比企鉱物標本』の標本整理・データベース化を通してこのコレクションの存在と意義を社会に発信することが本研究の最大の目的であり、さらには博物館所蔵の貴重な標本を“ほぼ非破壊状態”で分析・研究する手法を新たに創造・確立することも本研究の目的の一つであった。しかし、前述のように、コロナ禍の影響をまともに受けて博物館資料の整理作業には大きな遅れが生じている。その代わりに、博物館に収蔵されている鉱物がかつて収集された古典的な有名産地付近の調査・探索を行い、なかにはその近傍に新たな鉱物産地を開拓することができた所もあるなど、記載鉱物学の面では大きな進歩もあった。また、前述のように、X線分析顕微鏡(堀場製作所:XGT-7000VK)の導入により、鉱物標本をできる限り非破壊のままで分析できる環境を整備しつつあり、既設のX線回折装置や集束イオンビーム試料加工装置、走査型電子顕微鏡・透過型電子顕微鏡を組み合わせることによって、本研究課題で目標としている“ほぼ非破壊状態”で貴重サンプルを分析・研究する手法の確立に目途を付けることができた。
本研究課題においては、京都大学総合博物館に収蔵された『比企鉱物標本』の標本整理・データベース化を推し進めることが最も根幹となる作業であるが、そのためには研究協力者である豊遙秋氏(東京都在住)の招聘が絶対不可欠である。さらには、研究分担者の白勢洋平氏(令和2年4月 京大総合博物館→愛媛大)のみならず、総合博物館の内部の分担者であった延寿里美氏まで令和3年4月に愛媛大に転出したため、豊氏の来訪スケジュールに合わせてこの二人の研究分担者にも来訪いただく必要がある。現在、京都府と東京都に緊急事態宣言が、愛媛県にまん延防止等重点措置が発令されていて、なかなか研究組織メンバーが京大博物館に集まることができないが、これらの宣言・措置が解除されればすぐにでも集結して、標本整理・データベース化作業を再開させたいと考えている。それまでの間は、研究代表者・分担者が連絡を密に取りつつ、引き続き記載鉱物学の研究をそれぞれで推し進めていくことになる。特に3人ともが取り組んでいる京都府和束町の稀産鉱物の記載鉱物学的研究においては、既に相当量のサンプルは確保できており、京都大学・愛媛大学のそれぞれで観察・分析を進めていくことができる。その過程で追加サンプリングが必要となれば、下林が中心となって調査・試料採取を行い、京都大学内で、あるいは必要なサンプルを愛媛大へ送ることで研究を推し進めていくことができる。また、前年度に導入したX線分析顕微鏡については、装置に既設の標準の解析ソフトに加えて、新たに分析・データ解析のためのソフトウェアを導入して機能強化を図る所存である。
次年度使用額が発生した主な理由は、当該年度の旅費がほとんど消化できなかったことに起因する。前述の通り、本研究課題においては、京都大学総合博物館に収蔵された『比企鉱物標本』の標本整理・データベース化を推し進めることが最も根幹となる作業であるが、そのためには研究協力者である豊遙秋氏(東京都在住)の招聘が絶対不可欠であり、そのスケジュールに合わせて研究分担者に京大博物館に来訪いただく必要があった。しかし、当該年度においては、豊氏の招聘が一度も叶わず、研究分担者の白勢氏も京大博物館に来訪することができなかった。さらに、成果発表のための学会がオンライン開催となり、研究代表者・分担者の学会参加のための旅費も不要となった。そのため、旅費だけでも計画より60万円ほど余すことになった。現在、京都府と東京都に緊急事態宣言が、愛媛県にまん延防止等重点措置が発令されていて、なかなか研究組織メンバーが京大博物館に集まることができないが、これらの宣言・措置が解除されれば本年度に予定していた倍程度のペースで集結して、標本整理・データベース化作業を推し進めていきたい。
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