本研究は、人間の認知・判断プロセスを考慮した時空間アクセシビリティ指標を定式化し、その有用性・妥当性を明らかにするものである。また、研究期間中に、時空間アクセシビリティ指標値の効率的計算法を明らかにすることを研究目的として追加した。 まず、個人は時空間制約下において、そもそも活動機会を訪れるかどうかを判断し、その後、到達可能なものの中から具体的行き先を選択するという段階的選択を仮定した指標を定式化した。そして、実際の個人の選択データを用いてこの指標のパラメータ推定を行った。その推定結果から、時空間制約下における私たちの行動は、並列的というよりも段階的選択にしたがうものであり、それゆえ、この指標の有用性・妥当性が示されうることを論じた。また、ケーススタディ対象として設定した地区において、推定パラメータを用いてアクセシビリティ指標値の空間分布を算出し、その算出結果と人口分布・土地利用状況とを照合した結果からも、定式化した指標が時空間制約下でのアクセシビリティを的確に捉えていると論じた。 ここまで研究を進めたことで、そもそも、時空間アクセシビリティ指標の計算のための方法論や実践的知見が確立していないことが明らかとなった。そこで、オープンデータ、オープンソースプログラミング言語を活用し、時空間制約下で人々が辿る経路のネットワークデータの整備、時間地理学概念に基づく各種操作、などを行う具体的ノウハウを明らかにした。 最終年度は、大規模な人口を抱える都市を対象として、時空間アクセシビリティを計算するノウハウに基づく実証研究を遂行し、そこでいくつかの新規性のある知見が得られたことから、詳らかとした計算ノウハウの有用性を示した。この成果は、論文として現在投稿中である。 以上の成果については、研究期間全体を通じて随時、地理学およびGIS専門の学会等で発表した。
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