日本海東縁の沿岸域における完新世の地殻隆起と津波の痕跡を海岸の地形・地質から探り、それをもたらした原因となる地震の震源や津波の波源を検証する目的で、これまで山形県鶴岡市から新潟県村上市の沿岸,佐渡島沿岸,能登半島沿岸において調査を実施してきた。令和5年度は北海道の奥尻島沿岸において測量調査を実施するとともに、令和4年度に能登半島の調査で得られた試料の一部について放射性炭素同位体(14C)による年代測定を実施した。 奥尻島沿岸の調査では、1993年7月に発生した北海道南西沖地震(M7.8)の地震から30年の節目に当たることから、地震後30年間の余効変動の状況を調査し、海成段丘の分布との関係を探った。奥尻島は長期的な隆起を示す海成段丘が発達しているが、1993年の地震で奥尻島は最大約80 cmの沈降が生じ、島は全体として西南西に傾動した。この矛盾を解明するには、地震時以外の変動について理解することが重要である。そこで本研究では、宮内ほか(1994)によって地震直後に奥尻島を取り巻くよう設置された25点のオリジナルの基準点について、再測量を行った。その結果、過去30年間で地震時の沈降を解消するほどの大きな隆起はないことが明らかになった。このことは1993年の地震を起こした断層とは別に,海成段丘を形成するような隆起を伴う地震を起こしうる断層が存在することを示唆している。 一方、能登半島での隆起痕跡調査において発見した標高1.0-1.6 m付近の岩礁に固着する生物遺骸群集の14C年代測定結果は、西暦650-950年の値を示す。採取地点は輪島セグメントの東端に近く、同セグメントの活動とされる1729年の歴史地震よりも古い。2024年1月1日に発生したM7.6の能登半島地震では同地点が2 m以上隆起しており、活動セグメントとその履歴との関係を今後検討していく必要がある。
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