本研究の目的は、日本の地方都市における社会資本の整備と統治をめぐる諸集団の社会・政治過程を分析することにある。本年度は主に以下の作業を中心に研究を進めた。 ①大正後期から昭和初期の福岡市を事例にして、耕地整理事業と土地区画整理事業の進捗状況やそこで生じた行政、地主、離耕農民、地域住民の対立と共同の状況について明らかにした。 ②大正期の福岡市における水道の建設過程について分析した。特に水源地の集落及びダム建設によって農業用水や道路などの影響を受ける周辺農村の動向に着目し、水道という都市向けの社会資本の建設が、農村地帯に空間的に不均等な影響を及ぼすことで、農村間に新たな利益対立を生み出していたこと、またこうした対立構造を克服して都市との交渉を有利に進めるための共同の動きが模索されていたことなどが明らかになった。 ③呉市におけるインフラストラクチャーの整備について基礎的な資料の収集を行った。 ④長崎市におけるし尿処理の市営事業化について資料収集を行った。 ⑤地域の近代化と不均等発展などに関する先行研究として、フランスの社会地理学、特にルネ・ロッシュフォールの研究の再検討を進め、そのシチリア島の労働研究の現代的意義を明らにした。
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