今年度は成果の取りまとめと発表を中心に研究活動を行なった.コロナ禍によって海外調査(オーストリア・チロル地域)を断念した上で,調査対象地域である岩手県滝沢市および旧・都南村について,中心市である盛岡市との合併をめぐる対応や政策過程を中心に都市と農村の関係変化について考察を行なった.その結果,中心市である盛岡市はかつてのような求心力を失い,1990年代初頭に合併を実現した旧・都南村とは対照的に滝沢市は合併を拒否し,市制施行によって独立市となる道を選択した.滝沢市の動きには,日本における都市ー農村関係の変化,すなわち都市=進んだ地域/農村=遅れた地域という二分論が必ずしも成り立たなくなってきていることに加えて,戦後安定的な成長を続けてきた地方圏県庁所在都市が転機を迎えていることも反映されている.この成果の骨子は学術雑誌「地学雑誌」に投稿し受理されている.都市ー農村関係の変化に関する文献レビューについてはまだ読み切れていない文献も少なからず残っており,研究期間終了後にもう少し時間をかけて行いたいと考えている.世界的な都市化の動きが強調される中で,都市との関係を抜きにして現代社会における農村を理解することが不可能であることは論を待たないが,だからといって農村は一方的に商品化され,都市に供する存在となっている訳ではない.滝沢市の事例の考察をさらに進め,農村の側からみた都市との「距離感」について考えをまとめていきたい.
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