研究課題/領域番号 |
20K01175
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研究機関 | 奈良女子大学 |
研究代表者 |
宮崎 良美 奈良女子大学, 大和・紀伊半島学研究所, 協力研究員 (00612334)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 条里 / 条里地割 / 土地開発 / 大和国 / 越前国 / 近江国 / H-GIS |
研究実績の概要 |
本年度の研究において実施した内容の概要は以下の通りである。 1.初年度に引き続き、地図データの整備として、滋賀県の湖東平野南部を中心に国土基本図をスキャンし、GISで使用できるようにした。 2.湖東平野および奈良盆地の一部について、条里の坪界線の交点(坪区画の四隅)の地理座標をGIS上で計測した。 3.市町史等の小字や土地区画等を集成した資料や、条里復原、荘園等の土地開発や灌漑水利、地形条件等に関する資料を収集した。 4.大和、近江、越前などの主な対象地域における分析結果を、日本列島の条里のなかで比較検討することも重要であり、このことに関連して、大和や越前では、史料の制約などもあり、東大寺や興福寺などの大和の大寺院等の影響も考えられるため、当初の計画にはなかったが、九州など遠隔地の条里地域についても踏査を行った。 踏査したうち、熊本県の宇城市の史跡浄水寺跡の寺領碑には、9世紀前半の寺領の所在地が条里呼称を用いて記されている。それらは八代平野の条里地域にあるとされていたが、金田章裕氏は浄水寺跡の周辺に比定する案を出されている。寺領支配の上では、氏の案が旧来の案より妥当性を有するように考えられる。そうすると、平安時代初期には、このような都から遠く離れた地域においても、見通しのよい大きな平野や盆地だけではなく、山間部の小盆地のような地域についても、開発が行われる際には、平野部から連続する条里呼称を用いて一元的に土地を把握しようとし、条里が強く意識されていたということになる。これはすでに金田氏が説かれているところであるが、各地を現地踏査したことにより、同様の認識を深めた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
地図等の整備や条里に関するデータ入力等は、当初予定していたところまでおおむね進めることができたが、初年度の遅れが影響し、条里の坪区画の辺長や方位などの詳細な分析までは十分に行えなかった。また、新型コロナウィルスの断続的な感染拡大のため、対面を伴う調査や地籍図等の資料収集等については実施が難しい状況が続いた。逡巡もあったが、年度の後半になってかなりの感染状況の改善がみられたので、12月以降、対面を伴わない現地踏査や図書館での資料収集に絞って調査を実施した。しかし、当初の予定から若干の遅れを生じている。 ワクチン接種や感染対策の方法についての理解も進んできたため、来年度は、できるだけの感染対策を施して、調査の遅れ等を挽回したい。
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今後の研究の推進方策 |
地図等の整備や条里の坪区画の計測がほぼ完了したことを受けて、奈良盆地を対象とした予察的分析をもとに、GIS上で条里地割・条里呼称の基礎的単位である坪の区画の辺長の長短や方位のずれなどを分析し、この結果を基に、仮説的に条里区の抽出を試みる。また、越前平野、湖東平野について、奈良盆地と同様に条里区の抽出を試みる。その結果については、現在も条里地割が遺存する奈良盆地を中心に、地形条件、旧郡界や古代官道、大字界、かつての荘園の荘域や水利など、土地開発や地割施工に関わるとみられる地物等との対照および比較・検討を行い、どのようなこととより関連が大きいのか検討する予定である。 これらに関連して、地名や、荘園等の土地関連史料は、すでにGISを用いた「奈良盆地歴史地理データベース」として集成されているため、本補助事業期間では、灌漑水利の現況について資料(水利系統別の受益地に関するものを中心とした諸資料)を収集する。奈良盆地に関する水利や水利集団については、堀内義隆1983『奈良盆地の潅漑水利と農村構造』、王寺町水利史編集委員会編2009『王寺町水利史』などの調査・研究成果があるので、これらもふまえ、金田明大2000「GISを用いた古代都城の用排水系統に関する研究」(地理情報システム学会講演論文集9)などを参考に、条里区や条里地割との関連についても検討が行えるようにGISデータベース化をめざす。 また、最終年に向けて、本補助事業期間中に作製されたGISデータは、奈良女子大学古代学・聖地学研究センターHP等において公開できるよう整理する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品費、図書購入費については、国立国会図書館のデジタルコレクションや国土地理院のオンライン地図サービス等が年々拡充され、無償で活用できるデジタル資料が増えたことから、書籍や地図資料等の購入額がおさえられている。旅費は、新型コロナウィルス感染拡大の影響から調査を控えたことにより残額が生じており、来年度は、早期に調査計画を立て、感染状況をみながら十分に感染対策を行って効率的に調査を進めたい。謝金は、データ入力作業が順調に進んだ一方で、感染拡大の影響で初年度にアルバイトを雇用できなかったために生じた残額がある。しかし、次年度以降も引き続き資料収集や、研究成果公開へ向けた資料整理等を行うため、それらの費用が増加する見込みでもあるので、計画的に使用していく予定である。
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