研究課題/領域番号 |
20K01195
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研究機関 | 多摩美術大学 |
研究代表者 |
中村 寛 多摩美術大学, 美術学部, 准教授 (50512737)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 暴力 / 反暴力・脱暴力 / 社会的痛苦 / 周縁 / 文化表現 / 価値生成 / ソーシャル・デザイン |
研究実績の概要 |
21世紀の暴力の諸形態を念頭に、特にアメリカ社会の「周縁」に注目し、そこでの暴力の経験を契機にしてどのような価値生成が起こり、どのような公共哲学がつくられつつあるのかを問うこと、そしてその問いを通じて日本社会の今後の価値生成と公共哲学の在り方に寄与することが本研究の目的であった。1年目である昨年度は、アメリカ・メキシコ国境地帯への調査を予定していた。しかし、COVID-19の世界的なパンデミックのなかで、予定していたフィールドワークがおこなえなかった。したがって、当初の計画を大幅に変更し、日本にいながらできるかぎりアメリカ国内の情勢に関する情報収集をおこなった。また、アメリカは世界最大の感染者数を出し、死者数も最多となっている(2021年5月現在)。2020年、感染が急速に拡大していくさなかで、ミネソタ州ミネアポリス市警の警察官によって、黒人男性のジョージ・フロイド氏が殺害され、その様子はソーシャル・メディアに拡散し、2013年以降展開をみせていた〈ブラック・ライヴズ・マター Black Lives Matter〉運動がさらに全国規模でひろがりを見せた。主要メディアは、こうした一連の抗議運動のごく一部が暴徒化する様子を伝えたが、大方の運動は非暴力的におこなわれており、本研究ではこれらの抗議の背後にある、人びとの〈メディエーション〉の技法に注目しながら動向を追いかけていった。さらに、2020年は大統領選挙の年でもあった。周知のとおり、この選挙は文字通り国を二分し、一方が「不正選挙」を根拠なく主張することで、すでにあった陰謀説がより強固なものとなって拡散する結果を招いた。いずれのケースでも、ソーシャル・メディアが重要な役割を果たしているが、陰謀説の拡散においては、プラットフォームのあり方自体が問われ直している。この動向は価値生成にかかわっており、本研究でも動向に注目している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
2020年度の夏のあいだ、あるいは遅くとも秋か冬には、もしかしたらフィールドワークに行けるかもしれないと期待していた。しかし、アメリカ国内のパンデミックは、政治的分断とあいまって、世界でもっとも多くの感染者数と死亡者数をだすにいたった。2021年5月現在、ワクチンが行き届きはじめたこともあり、ピーク時から比較するとかなり落ち着きをみせている。 もちろん、日本国内にいて進められることは、できるかぎりおこなった。1) パンデミックの拡大が移民を含む「周縁」のマイノリティたちどのような影響を与えたか、2)その影響によって、いかなる社会構造が明るみに出たのか、3)そいした状況を受けて、どのような反暴力・脱暴力の取り組みがおこなわれたのか、の3点について継続的に観察をおこなった。 しかし、取得できる情報がほとんどインターネット上のものにかぎられるため、情報量は多いものの、一次情報として自分の足で確かめることができていない。また、実際にその現場にいる人間が情報発信している場合でも、その発話が検証可能になるためには、さらなる時間が必要と思われる。 パンデミックの拡大によって、当初予期していなかった暴力のメカニズムと反・脱暴力の試み、社会構造とその問題点などが、よりわかりやすいかたちで明るみにでたことは確かであるが、国境地帯を中心にフィールドワークを展開し、そこでの観察と聞き取りから反・脱暴力の試みのありようをあきらかにする作業には着手できていない。
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今後の研究の推進方策 |
国境地帯と「周縁」のコミュニティに注目しつつ、ひきつづき、パンデミックの影響を見ていく。これは当初の予定にはなかったことだが、あきらかに暴力と反・脱暴力の問題にかかわっており、世界規模の事態を受けて、それぞれの社会やコミュニティ、個人がどのようにそれに対応するのかを見るのは、必須であるように思える。2021年現在では、現地からの良質なニュース・レポートや論文も発表されはじめているので、それらの収集・整理・読解に時間をかける。また、政治的分断 情報の拡散 今年度のフィールドワークが可能なようであれば、夏あるいは秋以降に、アメリカ・メキシコ国境地帯へのフィールドワークをおこなう。新たに始動したバイデン政権下において、移民政策があらためて見直されているが、トランプ元大統領の掲げた反移民政策への賛同者がかなりの数いることを恐れてか、当初予想されていたよりも、移民の受けいれに向けたうごきが鈍いという報告も出ている。今後、注視していきたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
COIVID-19の世界的パンデミックの影響を受け、2020度に予定していたフィールドワークがおこなえなかった。そのため、その分の旅費を繰り越し、次年度使用分とした。2021年度において、フィールドワークをおこなう際に、旅費として使用する予定である。
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