研究課題/領域番号 |
20K01201
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研究機関 | 佛教大学 |
研究代表者 |
中嶋 奈津子 佛教大学, 総合研究所, 特別研究員 (50772555)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 早池峰神楽 / 大償神楽 / 岳神楽 / 弟子神楽 / 師弟関係 / 継承と伝播 / 早池峰山信仰 / 獅子頭権現 |
研究実績の概要 |
本研究の目的は、早池峰山麓(岩手県)に500年以上継承されることが伝えられる早池峰神楽(花巻市大迫 岳神楽と大償神楽の総称)において、「なぜ早池峰神楽は長期にわたり、継承できたのか」というテーマのもとに、①これまで学術的にも「早池峰神楽」として一括りに認識される二つの神楽の継承のメカニズムを解明することで、神楽の本質(本来はそれぞれの特徴を持つ個別の神楽であること)を明確にする ②二つの神楽が長期間に渡り継承できた理由を解き明かし、時代を超えて芸能を維持させる条件を明確化することである。このために「伝承者(神楽の担い手)とその変遷」「弟子神楽の形成過程」「継承のメカニズム」に着目し、検討することを課題設定とした。 2021年度は大償神楽における本研究課題を実施することで、大償神楽が各地に伝播していく背景と特徴、そして長期間に渡る継承を可能とした背景と理由を明らかにした。具体的には、複数の弟子神楽が存在する花巻市石鳥谷・大迫町・紫波町で、各弟子神楽の古老や別当に対して、来歴・師弟関係の確認・および師弟間の相互関係などの聞き取り調査や資料調査を実施した。その結果、神楽が各地域に成立する背景には、「早池峰山信仰圏で、すでに江戸時代に岳神楽が伝承されている地域に、明治時代以降大償神楽が浸透していく」という伝播の変遷があったことがわかった。また調査の中で師弟関係を示す複数の歴史的資料が見つかるなどの成果をあげ、大償神楽の伝播課程を明らかにすることができた。大償神楽の弟子の成立時期を検討すると江戸時代末期から明治時代以降、徐々に弟子は成立するが、とくに1955年以降に成立したいくつかの弟子との師弟関係が伝承のシステムとして機能し、師弟両方の神楽の維持に結び付いていることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
4: 遅れている
理由
本研究は神楽の担い手(とくに古老)に対する聞き取り調査等フィールドワークを研究の柱の一つとしているが、2021年度もコロナ禍のために調査が実施できない期間が長く、わずかに聞き取りを行う状況であった。本来は4月から開始予定であったフィールド調査が7月末の開始と大幅に遅れ、しかも調査可能な期間も限定されていた。花巻市・北上市・宮古市・遠野市・二戸市・九戸村などの6つの市町村で18回程の調査を予定していたが、実際は九戸村と花巻市内での7回(2022年3月まで)の調査にとどまり、進歩状況は遅れている。聞き取り調査の対象の多くが高齢者であるために積極的に調査を進めることができず、今後も感染状況を考慮し、慎重に調査を実施する必要がある。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に実施できなかったフィールドワークを2022年度に持ち越して、以下の3点を継続課題として宮古市・遠野市・花巻市・二戸市・九戸村を中心とした調査を推進し、分析を行う(16回)。 ①岳・大償神楽の弟子の形成過程と伝播経路の明確化。継続を可能とした条件の検討。 ②岳・大償神楽以外の早池峰山麓の神楽集団の特質の明確化と継承状況の確認。 ③各調査地での資料(神楽本や伝授書など)や文献の収集とその検証。 コロナ禍が継続すよるようであれば、資料調査を優先して実施していく。また、調査・分析した結果については、学会発表と論文の作成・投稿を行う。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度はコロナウイルス蔓延のために、フィールド調査や遠方に出向いての学会参加・研究会への参加が出来なかった。結果、旅費(32万2000円)として計上した予算を十分に活用することができず、28万1582円を持ち越した。これを2022年度の助成金と合わせて、以下の使用計画の内容で活用したい。①2021年度調査予定であった神楽団体の調査(11回)と今年度調査(5回分)の旅費(計16回)②研究協力者への謝礼(知識の提供・文書解読・交通費・5名分)③研究協力者と神楽担い手との合同研究会の開催④研究協力者合同での今年度調査地の巡検(3名)⑤遠方で開催される学会・研究会への参加にかかる参加費・旅費・宿泊費。⑥必要機材(記録用ビデオカメラ〈3万7000円〉・研究会用のプロジェクター〈4万8000円〉・スクリーン〈2万9800円〉)の購入。
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