研究課題/領域番号 |
20K01205
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研究機関 | 桃山学院大学 |
研究代表者 |
金本 伊津子 桃山学院大学, 経営学部, 教授 (60280020)
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研究分担者 |
中島 民恵子 日本福祉大学, 福祉経営学部, 准教授 (70503085)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | リターン・マイグレーション / 在外日本人高齢者 / 国際移動 / 文化回帰 / 老い / エイジング / ウェルビーイング |
研究実績の概要 |
高齢化の問題は、世界が憂える大きな問題の一つとなった。多様な文化的背景を持つ移民で構成されている多文化社会におけるエスニック・マイノリティの老いは、エイジズムとエスニシティから生起する社会的不利益に瀕していると指摘されている。 海外で老いを経験する日本人高齢者が日本的な環境(住居・施設やコミュニティ)や日本的サポート(日本語によるケアや日本食などの供給など)を求める声はいずれのコミュニティにおいても大きく、異文化での老いに対する不安を象徴している。「モデルなき喪失の過程」に不安を隠せない。国、文化・言語、家族、社会福祉・医療システムなどの境界を越えたライフ・スタイルを持つ者の高齢期における尊厳は、高齢者の文化アイデンティティと、居住する国の医療・介護・福祉システムのせめぎあいの中にあるといえる。 この研究においては、日本人移民の歴史を振り返り、国際移動のパターン(クラスター・マイグレーション(集団による国際移動)とインディビジュアル・マイグレーション(個人での国際移動)により世界に形成された日本人・日系人コミュニティの高齢化に注目する。ここではニューヨーク近郊のコミュニティに焦点をあて、リターン・マイグレーション(具体的には、日本への帰国)を老後の選択として持ち続ける海外在住の日本人・日系人高齢者のウェルビーイングを考察する。 また、クラスター・マイグレーションによって形成されたロサンゼルスにおける日本人・日系人高齢者コミュニティに、再び生起している社会的・文化的・世代間の問題点に対しても歴史的に振り返りながら、アメリカ多文化社会における多文化社主義の行方あるいはその限界を整理する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の研究においては、(2)インディビジュアル・マイグレーション(個人によるライフスタイルを求めた国際移動)によって形成されたニューヨークの日本人・日系人コミュニティのフィールドワークおよび調査から明らかとなった日本へのリターン・マイグレーションの要因を分析した。 量的分析からは、(1)年齢が1歳あがると、「日本」を選択する比率が低くなる、(2)「アメリカの市民権」の人と比べて、「アメリカの永住権」の人(日本国籍保持者)は、「日本」を選択する比率が高くなる、(3)子どもがアメリカにいる人に比べて、子どもがいない人は、「日本」を選択する比率が高くなる、などが明らかとなった。 質的分析結果からは、(1)いずれのグループも漠然とした漠然とした不安を抱えており、特に医療(費)・介護(費)に関する不安が大きい、(2)日本を選択した者は、煩雑な帰国の準備と日本社会への(再)適応不安を感じている、(4)アメリカを選択した者は、信頼できる人がいないという人間関係の脆弱さから孤独を感じている、などが判明した。
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今後の研究の推進方策 |
クラスター・マイグレーションによって形成されてきたロサンゼルスの日本人・日系人高齢者コミュニティにおいて、再度、日本人・日系人高齢者のケアの問題が顕在化している。1969年に日米の協働により設立された日本人・日系人高齢者施設のすべてが2016年に売却され、これにより、エスニック・コミュニティの文化的シンボルのみならず高齢者を支える術を失った。 高齢者を取り巻く潮目は、多文化主義に支えられてきた「文化的に配慮された」高齢者施設の役割の終焉にあり、エスニック・コミュニティそのものの衰退を示唆している。今年度は、このコミュニティの動向を歴史的に振り返り、日本へのリターン・マイグレーションに対する影響を考察する。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVF-19により、2020年から国内および海外のフィールドワーク調査が予定通り実施できなかったことが大きな要因である。 2024年度においては、ロサンゼルスにおけるフィールドワーク調査を計画しており、非営利ナーシングホームの再建を目指す「高齢者を守る会(Koreisha Senior Care & Advocacy)とKeiro(日系高齢者施設を運営していた団体)に対するインタビューを中心に研究を進める予定である。
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