本研究は,近年の韓国で地域住民,市民社会,ならびに地方自治団体の連携によって活発に推進されるようになった「共同体(マウル)作り」事業を,ローカル・コミュニティの設計的な組織化の実践を通じてローカルな関係性が生成・再編成される過程として民族誌的に分析・記述することを目的とした。最終年度である2023年度には,2023年8~9月と2024年3月の2回に分けて韓国現地での補充調査を実施するとともに,研究成果の取りまとめにあたった。 研究期間全体の成果としては,①韓国南原地域における共同体作りの展開過程の究明,②脱工業化過程におけるローカル・コミュニティの再生産過程の究明,③共同体理論の再検討の3つを挙げることができる。まず①については,既存の農村コミュニティを基盤とするマウル事業と都市住民や移住者が新たに創始する共同体・マウル活動との間に,人的構成や活用される資源,ならびに組織形態において相当の違いを確認できる一方で,行政・中間支援組織・その他ファシリテータの関与や活動を主導する主体の形成面で共通点も確認できた。これを踏まえ②については,移動性・流動性において顕著な多様性・異質性を見せる地域住民,特に移住者や帰郷者が地域でのネットワーク形成とともにローカルな主体として構成される様相に焦点を合わせて論じた。③については,実践を通じてローカル・コミュニティが生成/再生産される過程に着目し,ローカルな資源の活用形態,自益益他的共同性,共同体の構想と実践,「マウル」(地域共同体)概念の再構築などの諸特徴を再検討し,在来の農村コミュニティとの比較も行いつつ,「可能態としての共同体」という暫定的な分析枠組みを提示した。 課題としては,共同体(マウル)作り活動の代案性を問い直しつつ,ケアの諸関係ならびに身体性の交感としての親密性の再編成との関りを究明することを挙げられる。
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